姉妹愛もほどほどに−8(笑)







「さあて、覚悟は良いですね?」




仁王立ちして満身創痍なアホ刺客を見下ろす。




「く、くそっ!!」




「往生際が悪いですよ。さてと、と言う事で、捕ば――」









一瞬の出来事だった。









ゾワリと逆立つ全身の産毛。背筋を無尽蔵に走る悪寒。








そして、何よりも蒼麗が今まで培ってきた戦闘の経験が、蒼麗を突き動かしていた。







その手が、刺客の顔にかかり、そのまま地面に己の体ごと叩きつけられる寸前に――









元刺客の首があったその場所を――それが通過していく









ヒュン







ドォォォォンっ!!






「なっ?!」



真っ二つに切り裂かれた目の前の大樹を前に、驚きの余り目を見開く影月とは反対に、蒼麗はキッと目の前に立つ人物を見詰めた。




「危ないじゃないっ!!」



「――お前が飛び出してこなければ良かったんだ」







凛と響く――冷たさの中にも、何処と無く気遣いを含んだ声音。


しかし、怒り心頭の蒼麗は全く気付かなかった。



「だからって、何の予告もなしに」



口よりも先に手をと言う手段を普通に実行しようとした許婚を嗜める様に蒼麗は言う。



「だからお前は甘いと言うんだ。その男が何をしようとしていたか知らない訳ではないだろう?」



「―――――っ」




「蒼花の命を狙うもの、己の野望の為に、花嫁にしようという目的で蒼花を強奪しようとするもの、蒼花を傷つけようとするもの、
また蒼花に災いを齎そうとするもの一切の排除。それが俺の仕事。そして……そう言った者達を事前に排除し、蒼花が命の
危機無く健康で健やかに幸せに暮らせる様に配慮していくのもまた俺の仕事。俺は、自分の仕事を忠実にこなしただけだ。
寧ろ、邪魔し様としたのはお前」



「それの何処が悪いの?」



その言葉に、青輝は眉をひそめる。



「誰だって一度や二度の間違いはあるわ。なのに、その償いさえさせずに命を奪おうとする事こそどうかと思う。確かに、蒼花を
危険な目にあわせたり、自分の野望の為に蒼花の意思を無視して連れ浚い、婚姻を結ぼうとするのは許せない。でも、だからって
まるで命を唯のゴミの様に切り捨てるのは許せない」



「……だから、甘いと言うんだ」



「悪かったわね!!どれだけ甘くったって、私はこの道を行くのっ!!私は私のやり方で蒼花を守るわ」



だから、この刺客の命も奪わせない。




「厳正なる裁きの間に引きずり出す。その後は法の裁きを」




蒼麗は法の裁きを司る者達を信頼していた。



これが、金や欲に塗れ簡単に買収される様な者達であればそんな事は言わなかった。





けれど、あの大戦以降に据えられた者達は、自分を常に律し、厳しさを課している。
法の番人であるからには、常に公平さと、時には情の深さを、そして常に冷静沈着であらねばならない。
そして、その罪の決定を下すからには、誰よりも勉強して知識を蓄えることも必要であるとして、彼らは常に自分達を磨き続けている。





中でも、彼らはとある一つの事を胸に抱いている。








それは






罪あるべきものにそれに値する裁きを




罪なき者が謂れの無い裁きを受ける事がないよう







つまり、決して冤罪を起こさないという決意。





大戦前、多くの者達が権力者によって罪がないにも関わらず、裁きを受けさせられた。





それを知るからこそ、法の番人達は二度とその様な事が起きぬように願い続けている。





そして、もしもの時には即時の権力分断という保険までかけて。







「罪ある者にはそれ相応の罰を。けれど、それが少なすぎても困るし、多すぎても困る。また、それを起こすには
何かの事情があるかもしれない。それら全てをひっくるめ、判決が下される」





私はそれに従うと告げた蒼麗に、青輝は青銀の瞳を向ける。








二人の視線がぶつかりあう。









「……………」



「……………」








「例え法の裁きの場に引き出した所で、その刺客が生き残れる可能性は万に一つもない」





先に視線をそらしたのは青輝の方だった。






「では、私は賭けましょう。その万に一つの可能性で生き残り、己の罪を償うその機会を得る方に」






渦巻き眼鏡を外した蒼麗の顔――蒼花と瓜二つのその美貌に、鮮やかな笑みが広がった。







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