姉妹愛もほどほどに−1(笑)





黎深「兄上、兄上兄上兄上兄上〜〜vv」



邵可「黎深、落ち着きなさい」



劉輝「静蘭静蘭静蘭静蘭静蘭〜〜vv」



静蘭「主上……今は政務の時間では」



龍蓮「ふっ、愚兄よ」



楸瑛「何でお前が此処に居るんだっ!!」



などと、追いかける弟達に追いかけられる兄達の姿が春の砂浜に色を添える。


しかも、遠くから見れば――





兄達「うふふふふふvv捕まえてごらんなさい〜〜vv」



弟達「あはははははははvv待て〜〜vv」




にしか見えないから不思議だ。


きっと春のうららかな日差しが、甘く不思議且つ幻想的な幻を見せているのだろう。
誰に?傍観している私達に。
――ちょっとした気分転換で春の砂浜に来ただけなのに、今や砂浜を歩く
一般の方々の注目の的になっている秀麗達はついついそんな事を考えてしまった。



秀麗「少しは落ち着いてくれないかしら」


香鈴「そ、そうですね……」



寄せては引く波に足をつけに行きたいが、あの暴走集団に近づくのは嫌だ。
砂浜の入り口に立たされた秀麗、蒼麗、香鈴、影月、絳攸の5人は、
せっかく春の砂浜に来たものの何も出来ずにその場に立ち尽くすだけとなる。
何か他に時間つぶし――といっても、夏ならまだしも春の今、露店もやっていない。
よって、彼女達はただただ溜息をつき続ける事となる。



蒼麗「それにしても……仲が良いですよね」


絳攸「いや、あれはもう常軌を逸しているとしか思えないと思うが」


蒼麗「そんな事ないですよ。私の妹に比べればまだまだまともです」




はい?




蒼麗はうんうんと頷いている。一方、秀麗達は聞き捨てならない言葉に唖然とした。


あの暴走している者達よりも、蒼麗ちゃんの妹はやばいの?



と、その瞬間だった。



蒼麗の目がカッと見開かれ、彼女は絶叫した。





蒼麗「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!嘘、何でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!」





と、次の瞬間――





「お姉様ァァァァァァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」




上空から大音量が振ってくる。その声は聞くもの全てを魅了する様な
甘く切ない響きが含まれていた。その吸引力に惹かれる様に秀麗達が上空を見上げる。
そしてそれは居た。見事に蒼麗の真上に落下してくる。





キュピーーン!!




蒼麗の目が眼鏡の奥で確かに光った。
その次の瞬間、蒼麗は見事に上体をそらせて前方宙返りを決めた。
――見事だった。その技の切れ、スピード全てが10点満点。
しかし、元々蒼麗の居た位置の真上に落ちてきていたそれにとっては
その予想だにしない行動は本来の目標を無くすものであって……。




――結果――







ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!






後にそこに居た者達は語る。その時、大地が揺れた――と。



蒼麗「ふぅ……危なかった」



後一歩遅ければ自分と衝突しかねなかった物体を前に、蒼麗は汗を拭った。



秀麗「そ、蒼麗ちゃん?」


蒼麗「気にしないで下さい。大丈夫です。この人、この位でくたばる人じゃ」



「姉様、酷いっ!!」



可憐な声が聞こえたかと思うと、蒼麗の目の前で半ば砂の中に埋まっていた
落下物は叫んだ。それとほぼ同じくして蒼麗に飛びつく。
ぎゃっと蒼麗が叫んだがもう遅い。それはタコの様に蒼麗に絡みつき、しがみ付いた。




蒼麗「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




「姉様、酷いわ!!私はこんなに姉様を愛しているのよっ!!」



蒼麗にしがみ付いた落下物――いや、一人の少女は涙を含ませた声で悲痛に叫んだ。
その姿に、改めてその少女の姿を確認した秀麗達、いや、その場にいた
蒼麗以外の全員の時が――止まった。




それほどに、少女は美しかったのだ。




その整い過ぎた愛らしくも美しい美貌はもとより、白く滑らかな肌、
赤く濡れた薔薇の唇、高めの鼻、そして色違いたるオッドアイの大きな瞳には
聡明さと深遠な知性を表す美しい光が宿っている。
また、背丈と年齢こそ蒼麗と同じ位だが、胸はその衣服の上からも解る
形の良さと大きさを誇っていた。加えて、すらりと伸びた手足と姿勢の良さは
更にそのスタイルの抜群さを際立たせている。そして極めつけ。
少女がその身に纏う気高さと清純可憐さ、時に妖しい程に溢れる妖艶さと色香は、
年齢に沿うあどけなさと相俟って、老若男女問わず見る物全てをゾクッとさせる
威力があったのだった――。そう――100まで生きていて一度見られるかどうか――
いや、例え数千年生きていても見られない様な絶世の美少女がそこにはいたのだ。
緑翠と銀河も美形だが、この少女と比べると少し落ちる。


そうして誰もが目を離せずに、その少女の美しさに見惚れている中、
唯一人蒼麗だけは必死に少女を放そうと頑張る。




蒼麗「離してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!ってか、離しなさいっ!!」




「いや〜〜〜〜vv」




少女は耳元で囁かれたら「もうダメ!!」と言ってバタリと倒れそうなほどの
色香と魅力を含んだ声で反論する。



ふっ!やっと捕まえたのに誰が離す物かっ!!もう絶対に離れない!!



蒼麗「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!ってか何で貴方が此処に居るのよぉぉぉ!!」




「勿論、愛しのお姉様に愛に来たに決まってるじゃないvv」




いや、そういう意味じゃなくて……。そう突っ込もうとした時だった。




緑翠&銀河「蒼花様っ!!」



珍しく青ざめた二人が此方に走ってくる。
そして蒼麗達の前でザッと傅いた。



緑翠「何故貴方様がっ?!」



銀河「此方にいらしているとは全く知りませんでした。春日様達や皇龍様、我が主も此方に?」



蒼麗に絡みつく少女――蒼花の周りには常に彼女を守る護衛達と彼女の許婚たる君が居る。
因みに、銀河達の主は護衛の中でも筆頭護衛の地位に居り、彼女が行く所は
何処にでもついて回った。だから今回も――銀河達は自然と背筋を但し緊張を持つ。
しかし、蒼花と呼ばれた少女はあっけらかんと言い切った。




蒼花「居ないわよvvだってお姉様の為にお忍びで来たんですものvv」




そして次の瞬間、緑翠と銀河は絶叫した。どうやら彼らの許容範囲を超えたらしい。



蒼麗「緑ちゃん、銀ちゃんっ?!って、蒼花ぁぁ!!貴方一体なんて事をするのよっ!!
ってか、何で春ちゃん達をまいてくるの?!きっと凄く泣いてるわっ!!
ああ、もう早く戻って!!」




蒼花「絶対に嫌vv」




お姉様とずっと一緒に居るぅvvと更に抱きつく蒼花。



蒼麗の額に青筋が浮かんだ。




蒼麗「蒼花ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




春雷が春の砂浜を直撃した。







―拍手小話ページへ――続く―