「行って……しまうの?」











青い空の下、温かい陽光の降り注ぐ大地で一つの別れが行われていた











泣きそうなのを必死に我慢している様な声音でそう呟くのは、親友とも呼べる仲となった一人の少女
その顔も、これまた声音に負けず劣らずの悲しさを称えている
時折堪えるように大きく息を吸おうとして、雀斑のある鼻がピクピクと動く様は、なんとも痛々しかった




一方、悲しみの原因となっている少女も、大切な親友たる少女の様子に、その心を痛めた








世間一般では10人並の容姿
背中を覆う黒髪も、到底艶やかとは言えない
けれど――その黒い瞳に宿る溢れんばかりの生気と強い意志の輝き、そして何よりも美しく気高い少女の事が、
幼い少女は大好きだったから……




暫しその場を沈黙が支配する





しかし、程なくその沈黙を破るように少女の嗚咽が大きくなり始めた






周囲に立つ者達が、堪えきれないように泣きそうになっている少女を優しく宥め始める








それは、身分も地位も、少女とは比べ物にならないほど高い20歳前後の青年達








自分達の悲しみを他所に………







己の唯一人の妻にと望む年下の少女の悲しみを癒そうと彼らは心を尽くす







笑っていて欲しかったから









彼らは愛していたから











今朝露の如きを涙を零す――其々が心に抱えた闇を、吹き抜ける風の如く吹き払ってくれた少女を





地位も身分もなく、唯の一般の農民にしか過ぎない彼女は、誰よりも強く、美しく――そして優しかった








そして、多くの者達にその存在を知らしめた











『癒命の優姫』











この名を知らぬものは居ない。






例え、その容姿が10人並だろうと、地位も身分もなくとも――愛するものを守る為に彼女はそれを手に取り、立ち向かった




そして…………多くの者達が彼女の元に集った










そうして、数年







巨大な闇は取り除かれた










多くの代償とともに














けれど











泣きそうになっている少女を、今にもこの場を去ろうとしていた幼い少女は見詰めた










どれほど多くの傷跡を受けても……きっとこの国は癒えて行くだろう







失った



生きるべき土地を













でも、多くの者達が生き残った







次代を担う漲る生気と希望を持つ者達が












目の前の者達もそう












だから、きっと大丈夫







自分が居なくなっても










幼い少女は自分の思いを伝える












きっと――もう会えない







目の前に居る親友達と

















でも、きっと会える






その意志と血を継ぐ者達に















それに、自分もまた此処に来るだろう




それが何時の事になるかは解らないが……















だって












やるべき事があるから















そしてそれは………自分ではないと出来ないから




















だから











「きっとまた来るから」













そうまた来る














「いつの日にか……」








それが何時の事になるかは解らないけれど















―いつか―
















幼い少女は約束した





























間も無く、幼い少女は一人消えていった









青く澄み切った空を突き抜ける、雄大で美しい光の柱の中へと
















――いつの日か、再びこの地に来るという………唯一つの約束を残して――






























そして物語は始まる





























”遥かなる思いが籠められし聖宝を巡るその物語が”











―長編小説メニューへ――続く―