再会は笑顔と共に−14(おまけ編)







「蒼花公主、覚悟っ!!」




その声と共に、幾つもの暗器が蒼花を襲う。









ザシュウッッッッッッッッッッ!!










肉を切り、骨を絶つ耳を塞ぎたくなる様な音が当りに響き――ゴロゴロと転がるのは、
目をカッと見開いたまま事切れた暗器の持ち主達。







その場に、幾つ物赤い花が咲いた。






「――たわいもない」




一点の穢れもない美しい純白の衣を纏う蒼花を腕に抱き、青輝は己の背中を
覆う銀髪をたなびかせながら血に濡れた刀を払った。
その時に飛び散った血が、離れた場所に香高く咲く色取り取りの花を斑に赤く染める。




が、その程度。
現在彼らが佇む美しい庭園の一部――暗殺者達の肉塊と血に染まった
その部分に比べれば何の事はなかった。





「また来たのね」




やれやれと呟くと、蒼花は大きく溜息をついた。



そして、既に物言わぬ肉の塊と化したそれ――自分の命を狙っていた者達を
興味なさそうに見つめると、蒼花は己が持っていた短刀をしまいこむ。
続いて、不機嫌な眼差しを己を抱く青輝に向って向けた。




「なんで邪魔するのよ」




艶やかな桜唇から出るのは、眼差し同様不機嫌な言葉。
どう考えても、自分を守ってくれた相手に言う言葉ではない。



が、青輝の方も特に気を悪くした様な様子はなく、刀を鞘にしまいながら
淡々と口を開いていく。




「それが俺の仕事だ。お前を害しようとする者達からお前を守る。そして、常にお前の
安全を保障する為に傍に侍る。その他諸々。それこそが筆頭護衛の俺の仕事」



「私が不快な思いをしないようにするのも貴方の仕事でしょう?」



蒼花は顔を近づけると、ほっそりとした指で、青輝の白く滑らかな頬をなぞる。





――そんな、絶景とも言える美しい庭園に佇む絶世の美少年と、その腕に抱かれた美少女の寄り添う姿。
傍から見れば、それは見る者全てを魅了する甘く美しい光景と言えるだろう。





しかし、当人同士には甘い空気も何もあったものではない。





「なのに、私を不快に陥らせて如何するのよっ!!」



「そんなもの二の次だ」



ぬわんですってぇ?!



「それに、この後は夕食会だ。仕事に出かけている者達も帰ってきて、久し振りに
全員が揃う。はっきり言って、着替える暇もない。お前が手を下せばその純白の衣は
返り血に染まるだろうな」




蒼花の清楚可憐さを更に際立たせるような絹の衣。
機織を司る女達の渾身の作品でもあった。普通なら、染み一つついただけで
大騒ぎするレベルである。それが返り血なんてなったら、もう卒倒ものだろう。




――が、蒼花にはそんな事はどうでも良かった。
自分を襲った者達を惨殺する事と、この5歳年上の飄々とした無愛想な幼馴染を
言い負かせる方がはるかに大切である。




「はっ!私がそんなヘマをするとでも?あんな奴ら。瞬殺にしてくれるわ」




青輝は目を細める。




確かに、蒼花の技量からすれば、あれぐらいの者達など簡単に叩き潰すに違いない。
その戦闘能力も、技術も、能力も、同年代とは全く比べ物にならない。
しかし――




「ダメなものはダメだ」



「青輝」




「聞き分けろ。蒼麗が帰ってこないからと言って不機嫌になるな」




「悪かったわね!」




たぶん、止めなければ彼らが完全に肉塊となった後も、蒼花は笑いながら彼らを
利用するだろう。その命までも搾り取って、強力な呪いを彼らの親玉――自分を
殺す事を命じた者達に与えるに違いない。






今までも、蒼花はそうやって自分を葬ろうとする者達に死の呪いを与えていった。






(そうして、呪いを与えられた者達は――一族ごと消えた)





が、そこまでしても同じ事を考え、蒼花を葬ろうとする者達は後を絶たない。





自分達の欲望の為に、蒼花を手にかけようと無駄に日々を費やす。
唯一つ幸いなのは、その様な邪道な考えを持ち、実行するのが全体的な
それらからすると、ほんの一部であると言う事。その他の者達はその様な事をするどころか、
そんな考えは微塵も起しはしない。心から自分達に忠誠を捧げ、尊敬と敬愛、崇拝を
向けてきている。





けれど、全体的なそれが元々大人数なので、邪悪な考えを持つ者達が
ほんの一部といってもかなりの人数となる。





そして、そう言った者達は自分達の持つ権力や財産、人脈その他を行使して蒼花の命を狙う。
また、命こそ狙わなくとも、蒼花に追随する権力や地位、身分、財産を、そして蒼花自身を
得ようと刺客を差し向けてくる。因みに、この考えの方をを持つ者達の場合は、刺客に蒼花を
浚わせようとする。そして、自分や、自分の息子、兄弟などと結婚させようとするのだ。
蒼花は幼いながらも聡明で多才な上、輝かんばかりに美しい。
もっと成長すれば、その美しさは更に増していくだろう。
だから、その様に考える男達の気持ちも解る。





解る、のだが――










冗談ではない。










そんな馬鹿どもに蒼花を渡してたまるものか。








が、今回は幸いな事に――蒼花の命を狙う方。







って、そっちもとんでもない事ではあるが――青輝としては、そちらの方が
無用な怒りも抱かずに葬れる事もあり好んでもいた。
そしてたぶん……他の者達も同様の考えをしているだろう。




まあ、最終的にはどちらだろうが蒼花を狙う時点でその命を絶たれるのだが。





「全く、気分転換に庭に出てみたのにとんだ誤算だわ」




未だ帰らぬ双子の姉を思い泣き続けている事に心配した母に薦められ、庭園の散歩に
出かけた。最初の方こそは、気分も少しだけど軽くなったのに、更に気分を良く出来る
獲物――自分を抹殺しようと牙を向けてきた暗殺者達を殺ろうとすれば、青輝に邪魔された。



御陰で、一時は良くなった蒼花の機嫌は今も下がり続けている。





「それは光栄に存じます」





ブツっと蒼花の堪忍袋の緒が切れる。



が、ほどなくして更に堪忍袋をズタズタにする事が起きた。






「銀河、緑翠、どうした?」





微かな気配を感じ、青輝は振り返らずに声をかけた。
が、反対に、ようやく青輝の腕から下ろされた蒼花は裾と袖を翻して振り返る。



すると、自分達から3mほど離れたそこに、二人の美青年――銀河と緑翠が現れた。
蒼麗を追いかけた静蘭の側近二人。蒼花は目を細めて彼らに視線を向ける。



その鋭い眼差しに、彼らは萎縮するものの、即座に傅く。




「報告いたします」




銀河が口を開く。




「蒼麗様は」











数泊後。蒼麗が彩雲国に暫くの間残るという報告を受けた蒼花の絶叫と泣き声が
辺り一体に響き渡った。










そして、それから暫く蒼花の機嫌が最不調となった挙句、蒼花を狙う者達が
無残な姿となって事切れているのが発見される事となる。






正に、触らぬ神にたたりなし。










「お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










泣きながらも自分を狙う者達を惨殺していく蒼花に、青輝とその他幼馴染兼護衛官達は
大きく溜息をつき願い続けるのだった。






(((((((お願いだから帰ってきて、蒼麗っっっっっっ!!!!)))))))








けれど――実際に蒼麗が帰ってくるのは、それから暫く後の事となる。








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                       ―あとがき―

はい。再会は笑顔と共にの第14話兼オマケ話をお送りします。
というか――完全なオリジナルです、これは。別名――オリキャラ蒼麗の妹の蒼花と、
蒼花の筆頭護衛官であり、蒼麗の許婚でもある青輝のお話ですね。
まあ、なんか色々とネタバレみたいなものも存在していますが……詳しい事は、
今後オリジナルの方で明らかになっていくと思います。

そして……最後、蒼花の願いは届かずに蒼麗は帰っては来ませんでした。
当然ですが、帰還させられなかった銀河と緑翠は八つ当たりされました。
が、蒼麗が手を打って置いた為、文句を言う事に留まるのみ。
きっと、周囲は大変でしょうね(笑)
えっと、再会は笑顔と共には今回で終わりです。が、他の話ではまた蒼麗達が
暴れていますので、他のお話にも目を通して頂ければ幸いに思います。

此処まで読んで下さって有難うございましたvv