再会は笑顔と共に−13





秋祭り当日――。





「はい。これ」




蒼麗は自分の巾着袋から包み紙で包まれた二つのそれを取り出し、銀河と緑翠に渡した。



「え、蒼麗様?こ、これは」



「今日はお世話になっている人や、大切な人に贈り物をする日でもあるって聞いたから、
二人にプレゼント。中身はお守りだから」



二人は、呆然としつつも、渡された包み紙を開ける。


すると、そこからは七色の石が嵌った細い腕輪が転がり出てきた。
その大きさは――ちょうど、彼らそれぞれの手首にすっぽりと嵌るぐらい。
腕輪に嵌っている七つの色とりどりの石が、美しい光を放つ。





「えっとね……上手く石を丸く研磨できなかったんだけど……」




「いいえ」




銀河が蒼麗の言葉を遮るように言葉を発する。



「とても嬉しいです。有難うございます」



そう言うと、銀河は本当に心を許したものにしか見せない心から嬉しそうな笑みを浮かべる。
続いて、緑翠も踊りだしそうなぐらい嬉しそうに笑った。




「さてと、じゃあ次は秀麗さん達にプレゼントをしに行こ〜〜とvv」













「って……莱ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいっ!!」



喜び勇んで秀麗達を見つけた蒼麗。勿論、速攻で彼女達の為に作った贈り物を
渡そうとしたのだが……事もあろうか、蒼麗の頭の上を陣取っていた莱が燕青と
静蘭が大切に持っていた秀麗の贈り物を奪い取ってしまった。




――当然ながら、彼らは怒り心頭でそれらを奪い返そうとする。
が、莱もかなりしたたかに、彼らが(得に静蘭)決して手出しできない蒼麗の頭の上に戻る。





下手に切りかかったり殴りかかったりしたら、蒼麗の頭を勝ち割ってしまう。






ギギギギギvv







「こ、このっ」




緑翠と銀河とは別の意味でむかつく存在だと静蘭の中で認識された。




「うぅ、ごめんなさい。莱、女の子大好きなの」




異性よりも同性が大好きな莱。といっても、同性愛思考者では決してない。
唯、可愛い女の子が好きなのである。よって、秀麗の事も大好きとなっていた。


とはいっても、蒼麗の家族や幼馴染一家の男性陣に関しては可愛い女の子が
大好きなのと同じぐらいに大好きなのであるが。



しかし、静蘭や燕青に関しては、秀麗と比べるとそうでもないらしい。


あれだけの美形に対してそう判断をつける――そんな莱こそが最強ではないかと蒼麗は思う。





「ってか、返しなさい!!」



「それ、俺が姫さんに貰った腹巻だぞっ!!」




ギギギギギ!!



ビシッと指をつきつける莱。そして、彼女は無視を決め込んだ。




「こんのっ!!」




ギギギギギ♪




莱はその小さな手でポンポンと腹巻と飾り紐を放り投げる。





ブチンvv





そんな音が辺りに木霊した。






「静蘭、燕青、二人ともやめなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」





秀麗が慌てて止めに入るが、切れすぎた二人は止まらない。





そうして、秋祭りの警邏を他所に、静蘭と燕青は莱との争奪戦を繰り広げるのだった。









「ほほほほほほ、それは面白そうな事がありましたな」



数日後。


蒼麗は縹 英姫に招かれ、今年一番の出来である花茶をご馳走になっていた。


縹家との騒動が一段楽した後。
克洵と春姫から英姫が屋敷で倒れていたと聞き、彼らと共に駆けつけた後。
看病に走ろうとする彼らがしょっちゅう英姫に追い出されるのとは反対に、
何故か蒼麗だけはその傍に居る事を許された。そうして、そんなある日。



『お茶でも飲まぬか』



その一言を受け、蒼麗はお茶会に招かれたのだった。
勿論、お茶の肴は秋祭りでの騒動。とは言え、莱との争奪戦の後、静蘭と燕青が
秀麗じきじきにお叱りを受けたと聞いた。――本当に申し訳なく思う。
が、目の前の美しい老婦人はそれさえもコロコロと笑い飛ばす。
そこに、もう数日前ほどの顔色の悪さはなかった。
蒼麗はホッと息をつくと同時に、プンプンと頬を膨らませる。



「笑い事ではありません。静蘭さんと燕青さんには本当にご迷惑をおかけして……
って、莱っ!!何、勝手につまみ食いしてるのっ!」



干し葡萄をふんだんに使った甘いお菓子を器からひょいひょい取り出してはパクパク
食べていく莱に蒼麗は声高に叫ぶ。が、当然ながら彼女は普通に無視。



ギギっ♪



そして更に加速してお菓子を平らげていく。



「こ、このっ」


「ほほほほほ、元気で宜しいではないか。ふむ、莱とやら。中々に優秀じゃな」



ギギギ



すると、莱はゴソゴソと自分が背中にしょっていたリュック(←蒼麗の手作り)から何かを取り出す。



「ふむ?これは種……っ?!」



それは、莱の手の中で一輪の美しい牡丹の花へと変化する。



ギギギ




莱はそれを英姫にプレゼントする。
すると、今度はその牡丹の花が光り輝き、美しい羽衣へと変化する。



「……くっ」



「え、英姫様っ?!」



その場に崩れ落ちた英姫に慌てて駆け寄る。
すると、英姫は勢いよく頭を挙げ、カッと目を見開く。



「なんて……なんて事なのじゃっ!」



「英姫様、何か不都合でもっ」



「わたくしの馬鹿孫よりも気遣いに富んでいるとはっ」






「はい?」






「ふ。うちの馬鹿孫――克洵ときたら、何時も春姫を誘うのは書物を一緒に読む事。
根っこつきの花を贈ること。そればかりじゃ。他の金銀装飾の一つでも送れば良いものを……。
本当に頭が痛くて困る。まあ、春姫がそれで良いというのならば仕方がないと思って
おったのだが……しかし、莱殿を見てわたくしの考えは変わった」




(え?変わっちゃったの?!)



「これからは、克洵には莱殿を見習ってもらう」



「へ?」



「少しでも莱殿のようになってもらわなければ」



「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!って、ちょ、ちょっと」



「莱殿。と言う事で頼む」



すると、莱はリュックから紙と筆を取り出し、さらさらと何かを書き付ける。
そして、バッと二人に見えるようにそれを広げた。




そこには





『時給――干し葡萄1000粒。胡桃100個。』






ちゃっかり報酬を請求していた。




「莱ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいっ!!」



「ふ。そのぐらいお安い御用じゃ」




「えぇ?!あれ、普通にぼったくりじゃいなですかっ!!」




蒼麗が反論するが、莱は完全無視。捺印をその紙に押してもらうと、スタコラと
何処かに行ってしまった。



が――その手にハリセンがしっかりと握られている事から、絶対に克洵の指導に
向ったものと思われる。





「うぅ……克洵様、ごめんなさい……」




心の中で合掌し、克洵の無事を祈る。


莱は、可愛い顔をしているが、何気に鬼教師だったりするので、明日の今頃には
一体彼はどうなってしまっているのやら……。




「さてと、蒼麗殿」




背後からかかる英姫の声音が微妙に変化したのを悟ると、蒼麗は軽く目を瞑った。



どうやら、此処に呼ばれた本題に入るらしい。


蒼麗は、ゆっくりと英姫の方に振り返っていく。



二人の視線が交差し、暫し沈黙が辺りを支配する。





それから、半々刻。先に口を開いたのは……英姫の方だった。





「……そなたが我が一族たる縹家に滅びと災厄を齎した女神かえ?」





縹家に長きに渡って伝わる滅びと災厄の女神の存在。



それは、二目と見られない醜女であると言われたり、神々しい美しい女人と
言われたりと実に様々であった。






が、今実際に英姫の目の前に居るのは、何処にでもいる普通の少女。



いや、それどころか一見すると、地味で鈍間そうな感じさえする。





どう見たって、その昔縹家を徹底的に痛めつけた禍々しい災いの存在とは思えない。





(そう……思えぬ。だって……それどころかわたくしの目には)




地味で鈍間そう。けれど、それと同時に英姫の目にそれは映っていた。




蒼麗の小さな体から溢れんばかりに沸き起こる温かく優しい波動。
自分達の一族の長とは全く違う。見る者全てを優しく癒すような……そんな柔らかい
雰囲気と、その渦巻き眼鏡の奥に潜む瞳。そこには、温かく優しい光と、
深遠な知性の光が美しく宿っていた。



一見すれば、本当に唯の少女。



けれど……見るものが見ればきっと目の前の少女が唯の少女だとは思えないだろう。




しかし、その何処にも、英姫が幼い頃から伝え聞いてきた邪悪な部分は何処にもなかった。





「でも……実際に縹家を痛めつけたのは事実ですからね」



蒼麗はにっこりと微笑むと、茶器に残った花茶を飲み干した。
その優雅な手つきに、英姫は目を細める。



「そなたは……」



「でも、貴方の事は好きです。春姫様も」



ハッと目を見開く英姫に、蒼麗は優しい笑みを浮かべた。



「わたくしは……そして、春姫も縹家の血を引く」



「それが何か不都合な事でも?確かに、私は縹家が嫌い。でも……縹家の全てが
嫌いなわけではありません。私が大嫌いなのは――あの女と同じ考えを持つ者達」



「っ?!」



「そして……縹家の為に人を……薔薇姫の自由を奪った者達」



「薔薇姫……」



現縹家当主――璃桜が今も執着している麗しの姫。



「もう……二度と同じ事はさせないわ」



それが……どちらを指しているのか、自分でも良くわからない。




けれど




あの女と同じ事をし、同じ考えを今も持つ者達。





彼らだけは


入口



「時と場合によっては、徹底的に教育的指導をしなければなりません」




蒼麗はそう言うと、机の上に載る干し葡萄のお菓子を摘んだ。

その顔に、既に先程の険しさはない。
美味しそうにお菓子を頬張る姿は本当に微笑ましかった。



「……そうか」



「そうなんです」



にっこりと微笑む蒼麗に、英姫も笑い出す。




「ふっ……なんか……色々と考えていたわたくしが馬鹿みたいじゃ」



「色々と考える事は大切ですよ」



「ふふ。そうじゃな……ふむ。では、わたくしも伝えておこうか」



英姫は笑いながら言った。



「わたくしも、そなたが好きじゃ。――我が孫、春姫と克洵を助けてくれて心からの礼を言う」




「いえいえ、どう致しまして」


「こちらこそ。さて、そちはこの様な事をしってるかえ?」




悪戯っ子の様に目を光らせ、ひそひそと内緒話を話し出す英姫に、蒼麗も目を輝かせる。



そうして、英姫と蒼麗のお茶会は始終なごやかに進んだのだった。








「このたびは、本当に色々とご迷惑をおかけしました」



蒼麗と英姫のお茶会の次の日。


克洵と春姫が秀麗達にお礼を言いにやって来た。


が、よくよく見れば二人は前よりも肉体的にもその距離を近づけていた。


最初は、ようやく手を握るぐらいと言っていたのに。今では腕を組んでもいる。


だが、実際にはそれ以上事が進んでいたと解ったのは、春姫のこの一言。




「……わたくし、克洵様とご一緒に一夜を過させて頂いた事で、ますます克洵様への
思いを深くいたしました」




勿論、しーんと沈黙が流れた。


そして勿論、一拍後、克洵は文字通り飛び上がった。
続いて、慌てて春姫をたしなめるものの、春姫本人は自分の言葉が与えた被害を
まるで理解して居ない。
これは、克洵も苦労する。



「まあ、なんとかなるでしょう」



「人生は長いしな」



困ったように笑う銀河と、けらけらと笑う緑翠に、蒼麗もくすりと笑った。





「そうですね」





これから続く長い人生。彼らが幸せになれることを願う。





力無の自分。





けれど、もしそんな自分でも与えられるならば。









「彼らに永久の幸福と守護を」










その昔、彼らに贈った言葉と同じ言葉が呟かれていった。















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                       ―あとがき―

はい、再会は笑顔と共にの第13話をお送りします。今回はかなり莱が暴走しております。
って、静蘭と燕青から秀麗のプレゼントを分捕るなんてどれだけ精神が図太いんでしょうか。
因みに、静蘭&燕青VS莱の戦いではどちらが勝ったかというと――莱が勝利しました。
が、結局は蒼麗に怒られてしぶしぶ二人に腹巻と飾り紐を返しました。

そして……英姫と蒼麗。縹家出身の英姫に、縹家嫌いの蒼麗。
出会い方を一つ間違えれば彼女達はいがみ合う仲となっていたかと思うと、
ちょっと怖くなっていたりして……。って、それを書いているのは私ですが。

えっと、今回で再会は笑顔と共には終わりです。


――が、実を言うとオマケ話があったりします。二次小説ページにある再会は笑顔と共に
の話数を確かめて頂ければこのお話が14話まである事が解ります。
が、二次小説ページからは入れない様になっています。
それは――このオマケ話には、秀麗達は一切出てこないからです。
出て来るのは、蒼麗の双子の妹と、蒼麗の許婚の青年。後は、銀河と緑翠がちょっと。
つまり、完全なオリジナルお話と言っても良いです。


その話の内容は、まあ――蒼麗は緑翠と銀河にも言っていた様に、家に帰らない事に
決めました。その為、家に戻すように命じた蒼麗の家族達が一体どんな反応を
示したのかみたいなお話を書こうと思いました。
……って、結局話は全然違う方向に流れていますが。
因みに、一部残酷なシーンや人が死ぬシーンなどが話の到る所に書かれています。


よって、私の書いているオリキャラが好き、オリジナルのお話でも構わない、
残酷なシーンも許容範囲(けれど、それはお話の中だけのもの!!と、
きちんと現実と区別して考えられる)と言う方だけに読んで貰いたいと思い、
隠しにしております。



とは言え…………特に、そんな凄いものでもないですし、所詮は私が書くもの。
かなり稚拙な文章となっています。

が、そのまま放置して置くのも――と言う私なりの良心によって結果的に
隠しとした事をご理解頂ければ幸いです。


それでは、もし読まれたい方がいましたら探してみて下さい。
このページの中に入口があります。


そうでない方は、此処まで読んで下さってどうも有難うございました。