姉妹愛もほどほどに−4(笑)







その場の時が止まったのではないかと思うほど、誰もが動けなかった。





部屋の入り口に立つ一人の麗しき青年。





首筋で一本に結ばれた、銀色の月光を具現化したかの様な艶やかな腰元まである銀の髪と、強い意志と聡明な光が宿った青銀の瞳。
濡れた赤唇は形よく、鼻梁は目元同様すっきりと整っており、その白い肌に至っては、極上の絹よりも白く滑らかそうであった。
また、その全体的な容姿と纏う冷たい雰囲気は、正に月神の如しと言うべき蒼花同様数千年に一度の絶世の美貌である。
更に、青年の――服の上からでも解るすらりと伸びた手足と、中性的ながらも鍛えられた肉体に、武官陣はゴクっと生唾を飲んだ。
と、同時にそんな青年から匂い立つ様に沸き立つ圧倒的な色香と凄まじいまでの魅力、纏う冷たい雰囲気、そして威圧感は
この場に居る蒼麗と蒼花以外の全員を瞬時に虜にしたのだった。






青年が動く。


その度にさらりと衣擦れの音がなり、それと同時に色香というそれが零れ落ちている様だった。






とはいえ、動という印象の蒼花に比べれば、青年は静を。
光という印象を受ける蒼花に比べれば、青年は影を。
自ら光り輝く様な美しさと圧倒的なまでの美貌を持つ蒼花に比べて、青年は自らが光り輝いても、静にそこに佇み光り続ける様な美貌。
けれど、それでも尚青年の存在は圧倒的なまでの存在感と風格を漂わせ、秀麗達の目を捕らえて離さない。
影だけれど、静だけど、それでも決して見過ごす事が出来ず、何時の間にか周りを虜にする――
そんな美貌と魅力を持つ青年――それこそが、蒼麗の許婚――青輝であった。







「って、何で青輝ちゃんが此処に居るのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」







「だから、そこの馬鹿娘を迎えに着たんだ。馬鹿娘姉」





瞬間、蒼麗の中の困惑が消え去り、怒りがひしひしと漲ってきた。






「ぬわんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」






「馬鹿娘の姉だから馬鹿娘姉。略して馬鹿姉だな」








ドガァァァァァァァァァァンっ!!と、蒼麗の火山が大爆発した。








「殴るっ!!」




「「蒼麗様っ?!」」



「姉様、ファイトvv」



「「「「「「「「蒼麗ちゃんっ?!」」」」」」」」




其々が其々の反応を示す。
中でも、止めにかかったのは緑翠と銀河、そしてようやく解凍された秀麗達だった。
と言っても、影月と香鈴は未だに固まり続けているので除かれる。
それは、秀麗達とは違って、彼――青輝を初めて見たからだ。
その類稀過ぎる美しさ、気高さ、圧倒的な威圧感と存在感、そして漂う色香と妖艶さ、けれど何処となく神秘的で
不思議な月の青年から発せられる魅力が彼らを絡め取っては思考力を奪い、ただの虜と化させていたのだ。
とは言え、前に青輝と共闘する事となった秀麗達も解凍されたとは言え、青輝の美貌と魅力の虜となる事から逃れたわけではない。
けれど、今は蒼麗を止めなければという思いがその抗いがたい力に奇跡的に打ち勝ったのである。
そうして、赤い布をちらつかされた闘牛の如く青輝と呼ばれた青年に突っ込んでいく蒼麗を、横から、後から必死に抑え付ける。
しかし、蒼麗はその華奢な体の何処にそんな力があるんだと言わんばかりに凄まじい力で抵抗を重ねた。





「離して、離して、離せってばぁぁ!!」





蒼麗が大きく体をねじらせると、一番非力だった絳攸の体が飛んだ。
続いて、秀麗が弾き飛ばされる。




蒼麗はマジだった。
何時もは他人を思いやる優しい子だが、今は唯目の前で自分を馬鹿にする許婚の撃破しか頭になかった。






「蒼麗様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



「今のはちょっとしたジョークです。お茶目です!!主はからかってるだけです!!」






「そういえば、お前、この前体重1sも増えたんだってな」






「なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!ってか、何で知ってるのよあんたはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





蒼麗の怒りの火山が二次噴火を起こした。ドォォォォォォ!!という現実では有得ない勢いと速さで流れていく溶岩流。
直径1kmの火山弾だって飛びまくる。





「絶対、絶対、絶対、絶対、絶対に殴るわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」






「「「「「「「「「「「蒼麗ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」」」」」」」」」」」」





何人もの大人に体を掴まれながらも必死に歩いていく蒼麗。傍から見ればかなり怖い光景だった。


けれど、撃破対象となっている青輝は全くの無視。




しかも






「凄いな。その力じゃもう女を捨てたな。ってか、月の物も未だに来ないんだから、既に捨てまくってるか」






なんて、蒼麗を侮辱し、且つセクハラ発言満点な言葉を吐く。





そして次の瞬間、蒼麗が第三次爆発を起こしたのは言うまでもなかった。








―戻る――拍手小話ページへ――続く―