再会は笑顔と共に−10






蒼麗と柴凛が戻ってほどなくして、仕事から帰ってきた燕青達が春姫を診た。



しかし、彼らがどれだけ呼びかけようと春姫は反応しない。
その瞳に感情はなく、まるで生きた人形。感情と意思の全てが封じられているかのようだった。



特に、影月は手を尽くして彼女を元に戻そうと奮闘した。





が、終に春姫を元に戻すことは叶わなかった。





また、柴凛も蒼麗と別れた後、他の占者達に頼み込んだが、やはり誰一人として首を
縦に振ってはくれなかった。だが、影月曰く、春姫が可笑しくなったのは暗示のたぐい。
となると、それに詳しいものでないとどうにもならない。






そうして、一時はその場を絶望と諦めが襲った。






が、そんな中、唯一人、克洵だけは諦めないと宣言する。





そして、祖母が提示した3日で戻すと断言したのだった。




何時もはおどおどとした彼の思わぬ力強い言葉。そして、決意に溢れた瞳。




それに対し、秀麗達は全力で応援することを誓うと、再び自分達の出来る事をしに
散らばっていくのだった。










「蒼麗さん」



残った静蘭が蒼麗にコソッと声をかける。



「何ですか?」


「今回のは縹家が関わっているでしょう。占者達が動かないのも、不思議の術を
扱うという点について頂点に居る縹家の影響力のせいです。よって、占者達の協力は
無理でしょう。ですが――」




静蘭は言う。



「あなたならば……何とかできるのではありませんか?」



1年前のあの大戦で蒼麗の知識の深さに触れた静蘭だからこそ、その言葉はするりと言えた。



確かに、銀河達には叶わなかったものの、蒼麗はその時その時に自分の持てる知識を使い、
あの大戦を乗り切った。そして、そこで蒼麗は多くの術系統の知識を披露してくれた。



――が、蒼麗は力なく首を振った。



「確かに……やろうと思えばやれます。しかし……私では無理です」



「え?」



「私があの術を解いた所で、縹家は決して春姫様を諦めない。だから、私ではダメなのです」



「蒼麗さん、それは……」



「つまり、自分でやれって事だよ」



突然背後から降ってきた声。それに、静蘭は刀に手を携え、振り向く。





そして――驚愕の余り口から心臓を飛ばしそうになった。





「お、お前……まさか……緑翠、銀河っ?!」




静蘭から余りはなれて居ないその場所に何時の間にか立つ二人の青年。
鮮やかな緑髪をした爽やかな美貌の青年と、青みがかった長い銀髪を持った
物腰の柔らかそうな優しげな美貌の青年。


緑翠。銀河。



緑髪の青年――緑翠がクスリとその顔に妖艶な笑みを浮かべた。



「久し振りだな、鯖読み」



銀髪の青年――銀河もにこりと笑顔を作る。



「お久し振りですね、静蘭殿」



「あ、緑ちゃんに銀ちゃん、今まで何処に行ってたの?!」



「何処って……香鈴の悲鳴を聞いて俺達を置いていったのは蒼麗様ではないですか」



「う!!」



「無事……だったんですね」



炎の中に消えた彼ら。彼らが今自分の目の前に立っている。



「まあね。俺達があの程度で死ぬわけがない。―ー我が君にも傷一つつかなかったさ」



「それにしても……久し振りに来て見れば、今度は縹家が動き出している。面倒なことですね」



「確かに……で、何故蒼麗さんが縹家がかけた術を解く事がダメなんだ?」



「だから、縹家が認めない。それに、蒼麗様が動かれれば、縹家はムキになって
事を大きくするだろう」



「私は……縹家にとっては滅びと災厄を齎すものなんですよ」



「え?」



静蘭の目が見開かれる。滅びと災厄?



信じられなかった。だって、自分達にとっては、蒼麗は幸福を運んできてくれた。



「有難うございます。ですが……その事実には変わりはありません。……何時か、
お話できる時がくればいいのですが……」



そう言うと、蒼麗はくるりと踵を返す。



「蒼麗さん?」



「私も何か探して見ます。克洵様が、春姫様を元に戻せるように」




蒼麗は言った。自分ではなく――克洵が春姫を戻すのだと。




「それでは、失礼致します」



蒼麗の姿が閉まっていく扉に遮られ見えなくなる。




が、静蘭はその後も暫く動けなかった。


















茶家本家の屋敷の一角。
その棟を――英姫が作り上げた結界が包み込む。



常人には決して見る事の出来ない力の流れを見詰めながら、蒼麗はゆっくりと足を進める。





が、ほどなくして縹家の術者達が襲いかかってきた。



「莱」



殺す気はない。が、自分は無抵抗主義者でもない。



そして……今この場で一番穏便に済ませられるのは、莱だけである。






ギギギっ!!




莱が鳴き声を上げて大きく口を開く。








ズォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオっ!!







莱の口に向って、風が吸い込まれていく。
それに伴い、術者達の体から淡い光が放出され始める。
そして、その光は術者達が驚く間も無く一直線に莱の口の中に吸い込まれていった。





「「「「「っ?!」」」」」





光が吸い込まれていくにつれ、明らかに自分達の中から力が消えていく。
その消失感に、術者達の顔にあせりの色が色濃く浮かぶ。



しかし、既に対処するには遅く――術者達の力は全て莱に奪われてしまった。




「莱、ご苦労様」



蒼麗の頭の上で莱はクルクルと踊る。



「さて、これで貴方達は常人にしか過ぎない。それでも……まだやりますか?」



完全に力を奪われた術者達に最早蒼麗に抗うすべはない。




しかし――




「ふざけるなっ!!力まで奪われて、おめおめと引き下がれるかっ!!」



術者の一人が叫ぶ。そして、蒼麗に襲い掛かった。




「仕方ありません」



蒼麗は、懐からそりを取り出した。



淡い光を放つ透明な扇。それをパラリと開く。




「カマイタチっ!!」



蒼麗が扇を勢いよく振る。




そうして、扇から幾つもの風の刃が放たれていく。




術者の両足が切り裂かれていく。




「さあ、どいて下さい。――邪魔なんです、貴方達はっ!!」



蒼麗は、扇を術者達に突きつける。



縹家の術者達がゆっくりと後ずさっていく。



はっきり言って、彼らには荷が重すぎた。



蒼麗が持つ扇――『舞風』。風の力を操る事が出来た風雅刀を打ち直して作られたそれは、
その能力も威力も格段に上がっており、縹家の一般な術者では太刀打ちできない。



「お解かり願えたようで嬉しく思います。それでは、失礼致しますね」




そう言うと、蒼麗はスタスタと結界が張られた棟の中に入っていった。









そして程なくして








ドゴォォォォォンっ!!







何かを激しく殴打する音が聞こえて来る。




そして、中から蒼麗が出てきた。




その顔は、とても幸せに満ち溢れていた。




まるで全ての柵から解放され生まれ変わったかのようなすっきりとした雰囲気。






「これで、借りは返しました」




そう言うと、蒼麗はにこにこと笑いながら立ち去っていったのだった。














「父上ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええっ!!」




顔面を殴り倒され床に付す父――璃桜に、息子のリオウは慌てて駆け寄った。




何故こんな事になっているのか?




それは、先程までこの場に居た少女のせいだ。





英姫によって此処に足止めされていた自分達の下に、突如やってきた少女。




その少女があの滅びと災厄の女神と知って、直に戦闘態勢をとった。
が、直に刃物を取り上げられ、動けなくされた後、少女は父と対話した。





――と言っても、実際には






『今すぐ此処から立ち去って下さい』




『断る』





の其々一言だけ。






そしてその直後、攻撃をしかけた父の隙を突くと、少女は見事に父の顔面に一撃を入れた。




占いの時に襲われたお礼ですと言いながら。




そして、彼女はそのまま立ち去っていった。





「父上ぇぇぇぇぇ!!」





普段は自分に見向きもしない父。しかし、床に哀れに倒れ付す父の姿に、リオウは
一生懸命に介抱するのだった。














―戻る――二次小説ページへ――続く―



                        ―あとがき―


はい、再会は笑顔と共にの第10話をお送りします。
え〜〜、今回は余り書く事はないんですが……うん、今後解ってくる事ばかりなので、
下手に話すとネタバレに……。と言う事なのです。と、今回は莱が活躍しています。
そして、璃桜様。蒼麗の嫌いなものの琴線に見事に触れて一発食らってしまいました。
が、邵可様と薔薇姫を争った仲。やられてばかりの方では決してないでしょう!!
とは言え、蒼麗も昔の経験からかなり侮れなくなっていたりするんですが(笑)


ここまで読んで下さって有難うございますvv