再会は笑顔と共に−11





英姫が提示した残り日数――3日。






その一日目。






「うっわ!!これ、明らかに騙され――」



柴彰から送られてきた幾つ物商品。春姫を元に戻す為に克洵が注文したらしいが、
その明らかに妙な代物に、緑翠は大声で騙されてると言おうとし――蒼麗達に
羽交い絞めにされた。



「蒼麗様っ?!」



「緑ちゃん、そんな事いっちゃだめ!!克洵様の繊細で脆いガラスのハートを
砕いてしまいますっ!!」



同じく、止めにかかった秀麗や静蘭、燕青もうんうんと強く頷いた。



が、こうして騙されている事を後で知った方こそ、心を粉々にされるのではないかと
銀河は思うが、彼なりの思いやりによってそれは心の中でだけ突っ込まれるのだった。









2日目。





「な、なんですかこの地獄の火山から流れて来たかのような毒々しい
溶岩流の如きものはっ!!」



目の前でぐつぐつと煮えたぎる麻婆豆腐。克洵が春姫を元に戻す為に作り方を
秀麗と香鈴に手渡して作ってもらった代物だった。
――が、それは毒々しいまでに赤く、立ち上る湯気に至っては血よりも赤い色をしている。
というか、匂いですら強い刺激となって、周りの者達を攻撃している。






はっきり言って、食べたら即昇天してしまうだろう。





現に、必死に食べている秀麗達は現在死に掛かっている。
唯、この麻婆豆腐を作ることを願った克洵と、生きた人形のような春姫だけが
モクモクと食べている。いや、克洵の方はボロボロと泣きながら食べていたが……。




「って、俺。お前らの絆の深さを甘く見てたわ」




緑翠は匂いの刺激によって痛む目を押さえながら、感心したように呟いた。



普通ならば、辞退したって全く構わないというのに……秀麗達は克洵と春姫に
だけに食べさせてはおけないと、水を奪い合い、必死にその料理を平らげようと頑張っていく。




しかし、銀河は普通にこの料理を辞退しようとした。
そこまで付き合う義理は全くない。







が――






「結構美味しいですよ」




銀河が敬愛する主の大切な許婚の少女はその麻婆豆腐をパクパクと食べている。




秀麗達の手から箸がカラ〜〜ンと机の上に落っこちた。





「うんうん、凄く美味しいです」



「そ、蒼麗様?」



「蒼麗ちゃん?」



「そりゃあ確かに辛いですけど、妹の料理に比べれば、全然大したことないです」




瞬間、銀河と緑翠の全身からドッと汗が流れた。




蒼麗の双子の妹――蒼花は、容姿端麗、文武両道、聡明で機知に富み、
また歌舞音曲などにも通じた多才であり、匂い発つ様な色香と魅力を持った
完璧な少女である。が、何故か彼女は料理だけが出来なかった。
他の家事は文句の付け様がないほどに完璧なのに、料理をさせるととんでもないものを作る。
そして、その料理を食べた者は、普通にあの世を垣間見てくる。
いや、暫く三途の川をうろつくものだって多かった。







その料理に比べれば







「美味しいですね〜〜vv」



「ええ、美味しいです蒼麗様」



銀河と緑翠は涙を流しながら麻婆豆腐を食べた。




蒼花の料理の被害にあった事のある二人。
その時の事を思い出せば、こんな料理なんて。




そうして、蒼花の涙を浮かべた上目遣いについつい料理を食べてしまって味わった地獄に
到底敵う事のない麻婆豆腐を蒼麗と共に銀河と緑翠は平らげたのだった。






そしてそれから遅れること半々刻。秀麗達もなんとか料理を食べ終わったのである。





――が、暫くの間水をがぶ飲みする羽目となったのは言うまでもない。














そして、最後の三日目。




「今日で最後になったな」



「うう……克洵さんあんなに頑張ってるのに」



「ええ、確かに頑張ってるでしょう。その被害は全てこちらに来ますが」




あの超激辛殺人麻婆豆腐を食べさせられた怒りに震える銀河は、疲れたように言った。




「でも、でも克洵さん泣き言一つ言わずに頑張ってますよ!!昨夜だって、庭の松の木に
相談したり、ダメだったとクルクルと踊りながら歌いながらもっ」



「「蒼麗様、それが泣き言です」」



ってか、半ばイッテしまってるだろう、それは。




「はぁ……なんかこのままじゃ、私がしゃしゃり出なきゃならなくなってしまうかもしれません」



けれど、それだけは遠慮したい。



昔、自分がしゃしゃり出たことで、1年前の大戦に発展させてしまったのだ。



自分がこの世界に不必要に関わることは禁忌に値する。



それが痛いほど解っている蒼麗は、只管に願う。克洵が春姫を助けてくれることを。





(でも……縹家が攻撃してきたらやり返しますが)





「さてと、春姫様の下に戻りましょうか」



蒼麗の言葉に、銀河と緑翠が頷いた。


















「ぐすっ……姉様」



此処に来ると、双子の姉が何時も使う部屋の中央に座する天蓋付きベットに転がり、
蒼花はぐすぐすと泣きじゃくった。その腕には、両親が蒼麗と蒼花が生まれた時に
贈ってくれた可愛らしい兎のぬいぐるみの一つが抱きしめられている。
因みに、今蒼花が抱いているのは蒼麗の分である。


それを抱きしめて、姉の居ない寂しさを紛らわせているのだ。




――が






「……ひっく……姉様の馬鹿ァァァァァァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




蒼麗が大切にしていたぬいぐるみを抱きしめると、余計に涙がボロボロと零れ落ちてきた。



そうして、蒼花のかんしゃくは更に酷いものとなる。




「蒼花……」



青輝は大きく溜息をついた。


「お前、少しは落ち着けよ」



「姉様がいないのに落ち着いてられるわけないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



何気にしっかりと聞いている蒼花に、青輝は更に大きく溜息をついた。



「うぅ……姉様、姉様、姉様、私の姉様がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




「いい加減、姉離れしろよ」



「なんですって?!姉離れ?!そんな世界の終わり的行動を私がとれるわけないでしょう!!」



確かに、蒼花が姉離れしたら逆に世界が終るかもしれない。



「だって、だって!!せっかく姉様と一緒にいられると思ったのに……」




本当なら、ずっと一緒にいられる筈だったのに……自分のせいで姉は家族から
引き離されてしまった。たった一人、孤独に追いやられてしまったのだ。



なのに、姉は何一つ文句を言わず、それを受け入れた。



泣いて嫌がる自分とは違って、あんなに幼かったのに、唯静にそれを受け入れた。




何時かは……きっと、大人になればまた一緒にいられるからと言って。




でも……でも、自分はいやだ。



姉様と一緒にいたい。そして、弟や父、母、そして幼馴染達とその家族達と共に暮らしたいのだ。




「だ、だけど……今はそれが無理だって解ってる。ずっと一緒にはいられない。
でも……今回みたいに少しの間なら一緒に居られるようになったわ」



昔なら考えられなかった。でも……みんなの頑張りによってそれができるようになってきた。





なのに……なのにッッっっっっっっっっっっっっっっっ!!




「姉様、帰ってきてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえっ!!」




蒼花がぬいぐるみを抱きしめて叫ぶ。



「蒼花……」



そうして延々と泣き続ける蒼花に、青輝は大きく溜息をつくと、静に蒼花が居る
ベットに近づき腰を下ろす。そして、その艶やかな髪を優しくすき、頭を撫で続ける。



「……きっと……緑翠と銀河が間も無く連れ戻してくるさ」



その言葉に、少しだけ蒼花の泣き声は弱まった。













「失礼します〜〜」




蒼麗は、春姫達が居る室の扉を開けた。




その瞬間、蒼麗達に力の波動が向う。




それが、春姫の声――『命声』だと知るや否や、蒼麗は力強く断言した。









「断固拒絶っ!!」








蒼麗は、その言葉にありったけの強い意志を込めた。




すると、その言葉は力を持ち、言霊へと変化する。
そして、真っ向から春姫の放った言葉とぶつかりあった。






「拒絶、拒絶、拒絶っ!!」






蒼麗が更に力を込める。





自分は力が使えない。
よって、全ては自分の意志の力の強さに頼るしかない。




「蒼麗様、此処は私が」



「ダメっ!!銀ちゃんが動くと、春姫様が死んでしまうっ!!」




が、春姫の口から次々と齎されていく力ある声に、蒼麗は自分の方が
不利になっていくのを感じた。





その時――ピョンッと蒼麗の頭の上に莱が乗っかる。






「莱っ?!」






ヒュォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!






莱が大きく口をあける。




春姫の声が放たれた。




「しまっ」








ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!







莱が春姫の声に宿る力を吸い込む。




「莱っ!!」




春姫が放つ力を、莱はどんどん吸いこんでいく。




「蒼麗さんっ!!」



「影月さんっ?!」



声の方を見れば、そこには影月が立っていた。が、最も注目すべき点は――影月の足元に
倒れ付している香鈴と柴凛の二人である。



「まさか……春姫様の力を直接受けたんじゃっ」



顔色を無くす蒼麗に対し、影月は辛そうに頷いた。
蒼麗は思わず両手で口を覆う。


なんて事だ!!春姫の言葉次第では、早く術を解かなければしんでしまうかもしれない。



「くっ!!こうなったら直に」



「蒼麗様、春姫姫が」


「え?」


銀河の言葉に、振り返ってみれば、彼女は既に廊下に出ていた。




何時の間にっ?!




「頭が切れますね。一瞬の隙を突いて、一気に大きな力を発して莱を足止めしたんです。
そしてその隙に彼女は外に出て行ってしまいました」



「って、どうして止めてくれないんです?!」



「どうせなら、克洵殿に後を任せようかと思いまして」



「克洵様?――って、性懲りもなくまた来たわっ!!」



その気配を察知し、蒼麗は室から飛び出す。が、後からその手首を掴まれた。




「っ?!」




引き寄せられた蒼麗の瞳に、その人物は映った。




「あ、貴方は……」




「久し振りだな……本当に大きくなった」








―戻る――二次小説ページへ――続く―




                       ―あとがき―

はい、再会は笑顔と共にの第11話です。
これを読んで蒼麗の双子の妹――蒼花の料理がどれほど酷いんだろうと思われた方。
お答えします。彼女の料理は人を普通にICU送りに致します。そして、『料理で人を殺せる』を
素で実践するぐらいに、まずいです。というか、そもそも料理を作る過程で爆発します。
よって、彼女の周囲にいる人達は全力で彼女が料理をするのを阻止します。
なので、それに比べれば超激辛麻婆豆腐は緑翠と銀河にとっては美味しささえ感じられる料理だったんだと思います。ってか、作ったのは料理上手な秀麗と香鈴なので当然でしょうが。


それでは、此処まで読んで下さって有難うございます。