再会は笑顔と共に−12







蒼麗が、その存在と共にそこに駆けつけた時――既に、藍染めの占い師は秀麗を
浚いかけていた。動けずにいる秀麗の手首を掴み、もう片方の手をその膝裏に
滑り込ませようとする。




「させませんっ!!」




蒼麗は、懐からそれを取り出すと、何の躊躇もなしに投げ付ける。





秀麗の為に買った簪は――見事な軌跡を描いて藍染めの占い師の手に突き刺さった。




と、その隙を突いて、蒼麗と共に来た存在――陽月が占い師に一撃を入れる。




秀麗の体が占い師から離れた。





「秀麗さんっ!!」




地面に投げ出された秀麗に、蒼麗が急いで駆け寄った。





「――っこ、今度は何――影月君?!」





お尻を摩りながら体を起こすと、影月が秀麗を庇うように立っていた。
その向こうでは、影月の蹴りを寸前でかわした占い師――男が僅かにたたらを踏んでいた。
はずみで、頭巾が外れた。




「――失せろ。縹家のクソガキが」




破棄捨てるような口調と芯まで凍りつくようなその声に、秀麗は即座にそれが
影月ではなく、陽月である事を悟った。



「秀麗さんっ!!」



「え?……って、蒼麗ちゃん?!」




秀麗は次から次へと現れる人物に驚き、呆然とする。




「秀麗さん、大丈夫ですか?!怪我はっ」



「え、あ、大丈夫。って、それよりも春姫さん達がっ」




こんな時にも他の人を心配する秀麗に、蒼麗は優しく微笑んだ。




「春姫様達ならば大丈夫です」




蒼麗が陽月と共に彼らの元に追いついた時、縹家の術者達が春姫を
捕らえようとしていたが、銀河と緑翠によって叩き潰された。
そして、今も銀河と緑翠が静蘭と燕青を含めた彼らを守っている。




「もう大丈夫ですから」



「蒼麗。その女と共に下がってろ」



「白――陽月さん」




蒼麗は自分を守るように立ち位置を変えた陽月を見る。




そして




「いいえ、下がりません。私も、その方とその方の一族には怒り心頭ですから」




「……そうか」



陽月は微かに笑みを浮かべると、離れた所に立つ男に視線を向けた。



そして、ふつふつと湧いてくる怒りにそのまま力を振るいたくなった。



この男の一族のせいで……あの村の者達は――



全く、昔から、この一族はいつでも、ろくなことをしやしない。




ぞわりと、全身の産毛が逆立つ。



なのに、それでも、問答無用で力を使わない自分に腹が立った。



目の前のこの男を、殺すのは紙を引き裂くよりたやすいのに。



幼かった蒼麗も、もうその光景に耐えられるだけの心を育んでいる。



なのに……




(全力で力を使えば、いまこの場で、影月の命が尽きる――)




陽月は気付けば影月の命を心配し、力を振るえない自分に腹を立てる。



そんな自分に腹が立って仕方がない。



けれど、口は勝手に言葉を紡いでいる。




「消えろ。ぶち殺されたいか」





「陽月……」



秀麗を守りながら、蒼麗は陽月を見詰める。





簡単なはずなのに。あの男の命を消してしまう事など。




「陽月……とっても変わったね」



本当は物凄く非常にもなれるのに、影月を心配する陽月。
そんな陽月の事が、蒼麗は更に好きになった。
幼かった自分に甘かっただけの陽月よりも。





「そうだね……あの時からもう何百年も経ってるんだもの……変わって当然です」





蒼麗は優しい眼差しを陽月に向けた。





一方、男は陽月の言葉に、何かを得心したように、唇の端で笑った。





「……いいえ、これでは少々分が悪い。出直してくるとしましょう」




はっきり言って、陽月だけでも分が悪いのに、そこに蒼麗も加われば勝つ事など無理である。
特に、蒼麗と戦って秀麗を手に入れるのは無謀とも言える行動である。




男は最後に秀麗を一瞥すると、音もなく夕闇に消えていった。








それから、陽月は秀麗に春姫の術を解いてやると宣言すると、
秀麗の問いかけに応じずにさっさと背を向けた。




「蒼麗ちゃん」




「今は……知らなくても良いことです」




あの人を――知っているの?




そんな秀麗の問いに、蒼麗もまた遠い目をした。





縹家。異能を操る神祇の血族。





蒼麗がこの世で最も嫌いなものベスト10にランクインされる者達であった。











「それにしても……驚きだ。お前らにまで会えるとはな」



春姫を元に戻した陽月は、秀麗達から離れて屋敷の外に出ると、
音もなく現れた緑翠と銀河を一瞥した。



「別に、不思議な事ではないと思いますが……1年前にも来ていますし」



「ああ……『聖宝』か……悲しみと憎悪の鎖に戒められたあいつらも……」


「ええ。無事に皆、上に行きましたよ」



「そうか……」



「あ、白夜ちゃん見〜〜けっ!!」



何時の間にか外に出てきていた蒼麗が此方に猛ダッシュしてくる。





ガバァァァッ!!




「どわっ!!蒼麗、馬鹿、やめろっ」



「嫌です。再会の抱擁は過激にが私の信条です」


「この……はぁ……まあ、お前らしい」


「えへへへへへ。って事で、莱」



ギギギっ!!



蒼麗の頭の上に居た莱が、パカンと口をあける。
すると、そこからコロンと小さな緑色の珠が転がり落ちてくる。



「っと、はい」



蒼麗はにこりと笑って陽月の鼻をつまむと、驚いて開けられた口の中にその珠を放り込んだ。



「ぐっ?!お前、今の――」



陽月の目が驚きに見開かれる。



自分の中に居る影月の魂が




「これは……まさか」



「癒しの宝珠です。白夜ちゃんが強引に影月さんを乗っ取った際のダメージは
これで大丈夫です。物凄く無理させてしまったみたいですね」



「……お前は」



「私からの再会の贈り物です」




そう言って、蒼麗は太陽のような温かい笑みを浮かべたのだった。








―戻る――二次小説ページへ――続く―




                        ―あとがき―

はい、再会は笑顔と共にの第12話をお送りします。
今回は、璃桜様と蒼麗&陽月の対決。といっても、蒼麗は何もしてませんが(汗)
が、きっと今後彼女は笑顔で縹家とぶつかっていくので、今はこの位で……。
陽月と蒼麗は旧知の仲です。うん、まあ……これは、パラレル長編「遥かなる〜」で
今後明らかになって行くとは思いますが……。うん、なりますね、たぶん(←おい)
と言う事なので、このお話は陽月と蒼麗の再会話でもあります。
余り二人が絡んでないと思われる方。たぶん、今後絡んでくると思います。


えっと、此処まで読んで下さった皆様、どうも有難うございます。