再会は笑顔と共に−2





茶一族の一斉捕縛の後始末や、茶 朔洵の遺体捜索についてなどの議題を
終えて屋敷への帰路についた時には、もう夜遅くなっていた。



「すっかり遅くなっちゃったわね」



「そうですね〜」




静蘭と燕青が騎手となって走る馬車の中で、秀麗は影月と共に
書物を読みながらポツリと呟いた。




「きっと香鈴が私達の帰りを今か今かと待ち構えてるわね」



「早く帰らないとですね」




そうして二人は家の管理を担ってくれている少女を思い優しく笑った。




「あら?」




影月と二人微笑みあっていた秀麗は、ふと窓から差し込む月の光の変化に顔を上げた。




ス――っと、窓から頭を出して月を眺めると、さっき見た時よりも月の光が
強まっている気がする。








丸い、丸い月――青白さを帯びた銀色の光を纏いし夜空に輝く月の光が
秀麗達の乗る馬車を照らす。








「青い……銀に輝きし……冷たき月」




秀麗の脳裏に一人の青年が浮かんだ。




月神の君と呼ばれしその青年は――まさしく美しき月そのものの如しだった。
月光その物の様な銀の長い髪と、青銀の瞳を持ち、冷たい空気と月の様な
神秘的な空気を纏ったこの世の物とは思えない絶世の美青年。
最初に見た時、思わず自分の中の時が止まった。
息をする事すらも忘れていた。美しい――唯その一言だけ。
その青年の側近たる二人の青年も本当に美しかったが、あの月の青年とは
比べ物にならなかった。そうして、今、穏やかそうだけれど、冷たく、静かだけど中に
熱い物を秘めた不思議なあの月の青年の事が――
秀麗の中に浮かんでは消えていく。





そして――何時しかその青年達が迎えに来た一人の少女に思いを馳せていた。








清 蒼麗
あの月の青年達が迎えに来た少女






自分とその少女は、自分の家の前で少女が倒れ、助けるという普通じゃない出会い方をした。
秀麗は思い出すと、優しい笑みを浮かべた。



(ふふふ………本当に……そして――)



彼女は本当に……優しい少女だった。明るく穏やかな少女だった。
どんなに暗く重苦しい空気でも、どんなに負の感情が満ちていても、どんなに絶望が
襲ってきても、その少女が居るとたちまちそれらの空気は払拭されてしまう。
そんな――明るく光り輝く様な空気を纏った少女は、何時も笑っていた。
穏やかで、優しくて、明るくて……そして、何時も一生懸命に行動していた。


秀麗は思う。1年前のあの事件を乗り越えられたのは、きっと蒼麗が居たからだと。
彼女が手を差し伸べてくれた。見捨てる事も出来たというのに。
全てを無かった事に出来たのに。
いや、それどころか自分達を見捨てて事を成せたというのに……。
けれど、蒼麗は最後まで自分達の手を離さずにその小さな手で引きずりあげてくれた。
迷えば導いてくれた。決して、自分達を見捨てる事は無かった。



そして――彼女は最後の最後まで笑顔を浮かべて炎の中に消えてしまった……
迎えに来た……月の青年と……その側近達と共に――





「……蒼麗ちゃん」








何故、あの時自分は何も出来なかったのだろう?







それは今も思う事であった。



あの時、もう少し自分達がうまく立ち回っていればきっと何とかできたかもしれない。




けれど……劉輝達と何度もその事を話した結果は……あの時に自分達が選び
行動した分以上の事は出来ないという結論だった。






『聖宝』と呼ばれし道具を手に、皆が戦った。
『彩の教団』というこの国を破滅に導く者達と、そしてあの――。







あれは悲しい出来事だった。
過去に起きた幾つもの悲しい出来事の連鎖によって引き起こされた。






守りたかったもの。愛したもの。けれど……それさえも奪われ、利用された……。






欲深き者達の思いによって






悲しい悲しい出来事。






でも……最後には皆笑っていた。








『ありがとう……』






そう言って笑ったあの青年。そして青年が守る様にして抱きしめていた少女。







この世で結ばれる事はなかったけれど……それでも、あの世では……来世ではきっと……






そして、あの出来事で傷ついた者達、またあの出来事に悲しくも巻き込まれてしまった
者達の心が少しでも癒える様に。




秀麗はずっと祈り続けていた。一日も欠かさずに。




そして……祈っていた。
あの最終決戦とも言えるあの闘いの最後に――炎の中に消えてしまった少女達の無事を。










何時かまたきっと会える









そう言って笑いながら自分達のやるべき事をしにいった少女達。










彼女達は無事だろうか?苦しんでないだろうか?









そして――









何時の日にかまた会う事が出来るのだろうか?







秀麗はまるで吸込まれそうなほどに冷たく、妖しく輝く青銀の月を見つめる。




そんな秀麗を――影月は静かに見守った。







暫し無言の時が流れる。







唯、馬車の車輪がカタカタと音を立てて地面を進む――その音だけが馬車の中に木霊する。







(何時か……)





秀麗は願う。








何時の日にか……彼女達に再び会える事を







「秀麗さん……」








「あれは――っ」







「静蘭っ?!」




馬車の外から聞えてきた静蘭の驚愕の声に、秀麗は慌てて窓から顔を出した。




「静蘭、どうしたの?!」



「お嬢様、あれをっ!!」






静蘭の指差す方に顔を向けた秀麗の目に――それは飛び込んできた。





暗かったけれど、それでも秀麗ははっきりと解った。
まるでその存在を守るかのように、神聖なる月の光が差し照らしている。




静蘭が馬の手綱を操作する。あの存在の前で丁度止まる事が出来るように。


一方、秀麗ははやる心を抑え切れなかった。







もし、此処が馬車の中でなければ直にでも掛けていってあの存在を抱きしめるのに!!








秀麗は今か今かと馬車があの存在に近付くのを待った。




頭に何かを載せて道をトボトボと歩く地味な衣を纏ったその人物が、
馬車の存在に気づいたのか立ち止まって後ろを振り返る。




その顔は――






「……蒼麗ちゃん」






秀麗の瞳から涙が零れ落ちる。







あの、見覚えのある顔は……やはり……間違いない!!








あれは、蒼麗だっ!!










「やっと……やっと……」





ほどなくして馬車が音を立てて道を譲ろうと脇に避けた少女の前に止まる。
秀麗は驚いて制止しようとする影月の手を交わし、勢い良く扉を開け放ち外に飛び出した。










そして――







驚きのあまり呆然と立ち尽くす少女――蒼麗に抱きついたのだった。














「ただいまです、秀麗さん」





その言葉に、秀麗はただただ涙する。





今、ようやく約束は果たされたのであった。







―戻る――二次小説ページへ――続く―



                       ―あとがき―


はい。再会は笑顔と共にの第二話をお送りします(笑)
今回のお話は、秀麗の思いについてです。そして、ようやく再会できた二人であります。
って、再会出来なかったらやばいって(←一人突っ込み)