再会は笑顔と共に−3





「うわぁ〜〜vvすっごいジャングル屋敷ですね〜vv」




ようやく再会を果たし、共に自分達の現在の住まいである紅杜邸に来た大切な少女は
本当に無邪気にそう告げた。本人悪気これっぽっちもなし。しかし、秀麗達にとっては
その心に銛を全力で突き立てられたかの様な衝撃を受けたのだった。



「ぐっ……じゃ、ジャングル……」


秀麗は胸を押えてその場に座り込む。



この邸を日々全力で住める屋敷に変貌するのに全力を注いでいる香鈴は滂沱の涙を流した。




ってか、これも全ては前州牧のせいでっ!!



「凄いですね〜〜vvきっとお化けだって出捲りです!!」



お化けで捲り?!



「えっと、あの、蒼麗ちゃん」


秀麗はもうこれ以上この屋敷の価値を自分の代で落とすわけにはいかないと、蒼麗にこの屋敷が
こうなった原因を話していく事にした。因みに、此処が州牧邸である事実も。


そうして半々刻が過ぎた頃。蒼麗は改めてジャングルと化した州牧邸を見回した。



「そうなんですか……確かに、高位の人が住む場所って無駄に敷地面積と建物が
広いですからね」


茶州を支配していた茶一族の本家に次ぐ広さである。


「香鈴様は大変でしたね。私も、お手伝いしますよ」


秀麗達と再会した後、有無を言わさずに長期滞在決定になってましった蒼麗はにっこりと
香鈴に向かって笑いかけた。まるで、太陽のような温かな笑みに、香鈴は頬を赤く染めて
微笑み返した。どうやら、香鈴も蒼麗の事を気に入ったらしい。



「でも、この屋敷は本当にいい場所ですね」


「え?」


「たぶん……立地条件と元々この場所がとても良い所なんですね。一種の……
聖域みたいなものです」



蒼麗がそういった知識に通じている事を知っている秀麗は、一瞬驚いた物の、
直に笑みを浮かべる。



「そっか……あ、そうだ。蒼麗ちゃんが此処に滞在するんだから、部屋の用意を
しなくちゃねvv香鈴、空いている部屋はあるかしら?」


「はい。案内いたしますわ。あ、秀麗様、今日は凛様から良いお茶を頂いたんですのよ。
ぜひ召し上がって下さいな」」


「あ、俺もコレ、姫さんと香鈴にみやげ。やるよ」



そう言うと、燕青は懐から二つの香袋を取り出し秀麗と香鈴に手渡した。


「え、どうしたの、これ」


「んーー、なんとなく買ってみた。って、蒼麗嬢ちゃんには何にもやるものがねぇな……」


「気にしないで下さいvv元々、私は突然来てるし、それに燕青さんから贈り物を頂くほど
親しくさせて頂いてませんからね。でも、これから仲良くなれればとっても嬉しいです」


そう言って笑う蒼麗に、燕青はポリポリと頭をかいた。今度、何か買って贈って上げよう。



「でも……なんかこの頃香袋とかお茶とか増えてるのよね」


秀麗はどんどん増えてきているそれらに首を傾げた。
しかし、影月は良いじゃないですかと言い切り、静蘭も良いゆすりのネタになるから
とっておけと笑顔で言った。


反対に、燕青は搾り取れる物は何も無いと言い切ったりするが。
勿論、静蘭に突っ込まれたのは言うまでも無い。



「ふふ、ありがとう……さてと、蒼麗ちゃんを部屋に」



「誰かいらっしゃったようです」



蒼麗が門扉の方に顔を向けてぽつりと呟いた。



その次の瞬間、門扉が激しく叩かれる音が聞えてきた。



そして、誰かが駆けて来る。




「すいませんごめんください失礼します燕青さん静蘭さん影月くん――――!!」




転がり込んできたのは、茶克洵であった。



一方、そんな光景を目にした蒼麗はと言うと――




「此方ではそんなに訪問時の挨拶が長くなったんですね」



「「「「「「「そんな事はありませんっ!!」」」」」」」



秀麗達の否定の声が辺りに響き渡ったのだった。















「ひっく……ぐす……姉様が……姉様が……」




腰下まである長い金髪を揺らし、少女――蒼花は揺り椅子に座っていた母に駆け寄った。
すると、娘に良く似た美貌を持つ若い母がそっと自分の膝に顔をうずめて泣き始めた
娘の頭を撫で始めた。



「あらあら。それは困ったわね。大丈夫よ。緑翠と銀河が動いたらすぐに戻ってくるわ」



自分が生んだもう一人の娘。そして、彩雲国に向かってしまった娘――蒼麗が早く
戻ってくる事を、蒼麗の双子の妹にして自分の愛する娘に優しく伝えていく。



しかし、蒼花は中々泣き止まなかった。




「蒼花……」


「だって……だって……お母様はそう仰るけれど、前だって戻ってこなかったもの!!」



前に蒼麗が彩雲国に駆けて行ってしまった時、緑翠と銀河を遣わしても中々戻っては
来なかった。やるべき事があるから。そうして、最後まで自分がやるべき事を終わらせて、
それからようやく戻って来た。けれど、その体には大きな傷を負っていた。
術の使えない姉は力を使って自分の体を癒す事が出来ない。
体からは沢山血が流れていた。目の前が真っ暗になるかと思った。
大切な大切な自分の半身。2歳年下の弟が怪我しただけでも嫌なのに、
生まれる前から共に居る双子の姉が怪我をしたなんて耐えられなかった。



直に傷の手当てはされて傷跡も消されたけれど、半ば強制的に此処に足止めした。





もう嫌だった。




何時も傷を作ってくる姉。沢山辛い目にあって、痛い目にあって、大怪我して、
それでも姉は前に進む事を止めない。
そんな姉を尊敬すると同時に、本当に止めて欲しくて堪らないのだ。
姉には平和な場所で静かに楽しく暮らして貰いたい。それなのにっ!!



「蒼花……大丈夫よ。信じなさい。貴方と血を分けたお姉ちゃんなのよ?」



そう娘を宥めながらも、蒼麗と蒼花の母はその麗しい顔に少しばかり悲しげな笑みを浮かべる。



本当は、自分だって心配だ。今直ぐ連れ戻したい。
幼い頃から寂しい思いをさせているあの子が、その心だけではなく体までも
傷つけるような場所には置いておきたくない。




けれど――





蒼麗と蒼花の母は思い出す。



蒼麗が此処を抜け出す前に自分の下に来た事を






『約束を果たさなければならないの』





第一声がそれだった。お母さん、でも何でもなく。

その事に、呆れ、そして悲しくなった。


でも……




『ちゃんと帰ってくるから』



自分の下に駆け寄り、抱きつきながらそう言う娘を止める事は出来なかった。




そう……自分が手を貸した。



止めたかった。本当は此処にずっと居て欲しかった。何処にも帰らずに、ずっと……。



(いいえ、それは無理ね)



此処は危険だ。力無しのあの子には。そう――もし此処にずっと置いておけるので
あれば最初からそうした。あの子を一人あんな場所に追いやらなかった。
ずっと傍に居て……この子――蒼花から引き離しもしなかった。



どれほど願っただろう。あの子が扱える力を得る事を。




あんなにまで強すぎる力を持たない事を。




(……どうしようもないのにね)




どうしようもない。どうしようもないのだ。あの子が生きている。それだけで満足しなければ。
もし、あの力が暴走して娘を失っていたら、きっと自分は生きてはいけなかった。
大切な大切な愛する娘。一緒に暮らす事は出来ないけれど……愛する我が子。




(でも……それでも力があれば……)




結局は、もっと遠くに行ってしまった娘。
そして、それを追いかけて行った子供達。全員が行ける訳ではない。
だから、交替であの子の元に行く。




でも……それだけでも感謝しなければ。もっと昔はそれさえも出来なかったのだから……。




そして……一時的に娘を此処で静養させる事も……。





蒼花はそれを知っている。誰よりも解っている。だからこそ、その時間を大切にしたかった。





だからこそ……姉が行ってしまったのが悲しいのだ。





蒼麗と蒼花の母は娘の気持ちが痛いほど解っていた。



だから、泣き続ける娘を優しく宥め続けた。



それに、もうこの後は仕事もない。娘の為に時間を使い続ける事が出来る。





「蒼花……きっと蒼麗は無事に帰ってくるわ。私達の元へ」




そうして母の心地よい声を聞きながら、何時しか泣き続けていた蒼花は眠ってしまう。


そんな娘を、母は優しく撫で続けたのだった。











「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁvvか〜〜わいい〜〜!!」



秀麗が両手を組み、目をキラキラと輝かせながら蒼麗の頭の上にいる灰色の物体を見た。


蒼麗曰く、チンチラという動物らしい。今まで見たことが無いが、鼠と兔を足したようなもので、
子犬ぐらいの大きさがあった。尻尾も耳も大きく、円らな瞳がこちらを見つめている。
また、ふかふかの毛皮がなんともvv



「本当に可愛いですね〜〜vv」



香鈴も秀麗に負けず劣らず目を輝かせている。



「私の友達の莱です。因みに、雌です」



少し前、克洵から男同士の話があると懇願されて自室に引き上げてきた秀麗、
香鈴、蒼麗の3人は最初のうちは書物を読んだり縫い物を縫ったり、蒼麗の事について
話していた。が、程無くして蒼麗の服の中から出てきたもこもこの物体に、
秀麗と香鈴は驚いた。そして、それがとってもラブリーな動物vv
しかも、とても人懐っこいと解った時、二人共即座にメロメロになった。



そうして、今に至っていた。



「おいで〜〜vv」



秀麗が手を伸ばすと、ピョンッと蒼麗の頭から秀麗の手の中に飛び移る。
そして、自分の爪で秀麗の手が痛まないように慎重に歩くと、秀麗の頬に自分の顔を
摺り寄せた。また、同時に長い髭が頬に当り、秀麗はくすぐったさに思わず笑い声を上げた。




「あははははははは!!くすぐったいわvv」




続いて、香鈴の膝に飛び移り、やはり香鈴の頬にもほお擦りする。




それを見ていた蒼麗は――



「って、人の頭から勢い良く飛んで行くくせに、二人への着地は慎重にって如何いうこと?」



ビョンッと頭に爪を立てられた上、その大きな足で踏み台にされた蒼麗は
心底納得行かないといった表情で莱を見つめた。おい、本当にどういう事だよ。




しかし、莱は完全無視。自分の友よりも可愛らしい少女二人を取ったのだった。




「う、う、う……莱の馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





小さい頃から一緒に居る自分を捨てるなんてっ!!




蒼麗は涙を流しつつ仕舞っていた室の窓を開けて飛び出そうとし――



「夜分遅く、お庭から失礼致します」



と、窓の外から聞えてくる可憐な声の持ち主。


そんな可憐な声を持つ、夜の闇に佇む楚々とした美少女と激突したのであった。




「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!蒼麗ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!
あんど春姫さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」





真っ向からの正面衝突だった為なのか、勢いが付きすぎて居た為か、
蒼麗と春姫はゴロゴロと庭を転がった。



悲鳴を上げつつ秀麗と香鈴が窓から飛び出し、二人を追いかける。




そうして、なんとか庭にある池に落っこちる前に回収したのであった。






―戻る――二次小説ページへ――続く―




                      ―あとがき―



はい、再会は笑顔と共にの第三話を御贈り致します♪秀麗達に連れられて州牧邸にやってきた蒼麗。決して言ってはならない禁断の言葉をあっさりと言い切りました(笑)
そして、途中出てきた蒼麗の双子の妹とその母。一応、オリジナルの方では沢山出てきますが、
此方では……蒼麗と蒼花の母は余り出てきませんね(汗)因みに、蒼麗達の母は、娘達に
良く似た美貌を持つ清楚可憐且つ少女の魅力+大人の魅力と色香を持った栗毛色の
長い髪を持つ女性です。そして、どちらかと言うと綺麗だけど可愛らしい感じの女性だったり
します。って、娘達が母に似たんですね。また、見た目はとても子供を3人産んだとは
思えぬほど若々しいです。皺だって一つもありません(笑)
まだ何時になるかは解りませんが、オリジナルで出て来た時には結構以外な形で
出てくるかもしれませんので、ああこういう人もいたな程度で思い出して頂ければ幸いですvv
と、オリキャラ談で長くなってしまいましたが……最後の部分で春姫にぶつかってしまった蒼麗。
果たしてこの後どうなるのか……それは、続きで皆様の目で御確認くださいませvv