再会は笑顔と共に―5






秀麗の元に来て数日。









「莱ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」







自分の友達?っていうか本当に友達なのか疑いたいが、長年の付き合いである
チンチラの莱に、秀麗に上げる予定だった簪を取られた蒼麗は、全力で彼女を追いかける。
しかし、地の利は莱にあった。州府城の庭を既に知り尽くした莱は、軽やかなターンを
繰り返し、見事なジャンプを披露し、終には城壁の壁にあいた穴にすっぽりさようなら。




それを見た蒼麗は慌てて走るのを止めた。




本来ならそのままノンストップで進みたいのは山々だが、莱が通り抜けた穴は
残念ながら小さすぎて蒼麗には絶対に通り抜けられない。しかし、悲しいかな。
既に城壁は迫っているのに、足が止まらない。





そして――









ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!










「え?!な、何っ?!」




州牧室の近くにある秀麗専用の休憩室となっている眺めの良いその室の窓から、
部屋の主である秀麗が慌てて顔を出した。すると、庭の片隅に――





「ふにゃぁ〜〜」




「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!蒼麗ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」




壁に激突し、額にタンコブを作った蒼麗が城壁下に転がっていた。
その周りでは、原因を作った莱がピョンピョンッ!!と飛び跳ねている。
遠目からは解らないが、あの飛び跳ね方は予想だにしない結果に慌てているのだろう。




「大変、直に行かなきゃっ!!」




そうして、蒼麗は大慌てでやって来た秀麗と燕青によって休憩室に運び込まれる事となる。












ピョンピョンピョン





トントントン





ペンペンペン





莱が蒼麗の額をその小さな手で叩く。本チンチラは気遣っているらしいが、
はっきり言って腫れている部分を叩かれるのは痛い。



「やめて〜〜(泣)」



しかし、莱は止めない。すると、柴凛がスチャッと何かを取り出す。



それは――




「干しぶどうだ」




莱の目がキラリと光る。そしてそのままダーーーシュッ!!




数秒後。見事に莱は干しぶどうを自分の物にした。




「莱……私よりも干しぶどうの方が好きなんだね」




ってか、名前を葡萄にでもしとけば良かったと、蒼麗は額に新しい
濡れタオルを当てながら呟いた。




「ははははは、まあいいじゃありませんか」




悠舜が微笑みながら蒼麗が使い終わった濡れタオルを冷たい水に浸し絞っていく。



「そうだぜ。所詮、動物は本能の前には負けるもんだしな」



「人間も動物です」



蒼麗の突っ込みに、燕青はウッとたじろいだ。




「それにしても、本当に大丈夫かい?女の子が傷を作ってはいけないよ」



柴凛が蒼麗の額を心配し、優しく顔にかかる髪を上に持ち上げていく。
先程よりは腫れも引いているが、やはりまだ赤い。



「大丈夫です、柴凛さん。それに、こういうのは日常茶飯事ですからvv」



いや、日常茶飯事はやばいって……。しかし、蒼麗はあはははははと笑いつつ
額に当てる濡れタオルを取り替えていく。



「そうだ。これをつけておくと良い」



柴凛が懐から丸い薬入れを取り出した。



「うちの家秘伝の塗り薬だ。効き目は私が保証する。特に、打ち身にいい」



「あ、有難うございますvv」



「さてと、それでは私もそろそろ戻ろうかな」



本当は、とっくの昔に戻る筈だったが、蒼麗が城壁に激突した事で延び延びになっていた。



それから間も無く、柴凛は他の者達の別れの挨拶を受け、優雅な足取りで
その場から立ち去っていったのだった。




「って、莱ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!貴方、それ食べすぎじゃないっ!!
ちょっ、それ以上食べたらダメぇぇぇ!!」




袋一杯の干しぶどうを好きなだけ食べまくる莱に、蒼麗は慌てて取り返そうとするが、
彼女は決して離そうとしない。



それどころか








ザァァァァァァァァァァァァァァ







モグモグモグ








ゴックン






残りの干しぶどうを口の中に流し込み数回咀嚼した後、
大きな音を立てて飲み込んだのだった。


そして、何処から取り出したのか爪楊枝を持ち出し、自分の歯の掃除を始める。






「ってか、食いすぎだってばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」




「流石です。燕青もあれぐらい要領がよければ」




「要領とかいう問題じゃないだろっ?!」




本気で尊敬する悠舜に、燕青が全力で突っ込む。
しかし、所詮は燕青如きで悠舜に勝てるはずが無かった。
100倍に返されてあっけなく撃沈したのだった。




「って、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!秀麗さんの所に逃げ込むなんて
ずるいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」




「そ、蒼麗ちゃん、落ち着いて(汗)」



「くっ!!こうなったら今日の夕飯は3分の1にしなきゃ!!」




莱が物凄い勢いで反応し、蒼麗に向って断固拒否を訴える。
しかし、蒼麗も絶対に譲らず、その場は大混乱に陥った。


だが、秀麗はそんな大混乱を心地よく感じていた。こんな風に色々とあると、
考えずに居られる。夢のことも、何もかも。






けれど……






秀麗は思った。





今年で、今回で恋を終わりにすると言った柴凛。







何も壊さずに、何も失わずに、そして――何も変わらずにその時を向え終わりにする。





そんな恋もあるのだと







秀麗は、そっと目を閉じた。








が――










ビタンっ!!








「ぶっ!!」




「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!秀麗さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」




莱が秀麗の顔に張り付いた。


悠舜と燕青がお茶を噴出し、蒼麗が悲鳴を上げる。





そして――




ご飯をくれるまで絶対に離れないと篭城?を決め込む莱を引き離すのに、
蒼麗達は半々刻の時を有することになるのだった。

















自分がこの先命が潰えるとしたら――その原因は絶対胃潰瘍だ、と青輝は本気で思った。
いや、ストレスによる頭痛死?かもしれない。




(ってか、とっとと戻ってこんか!!んの馬鹿皇龍っ!!)




自分の両親達の中でも、最高にして最強且つ最恐と謳われる(と同時にとっても尊敬されて
慕われてるけど)者達を両親に持ち、また自身、自分達幼馴染達の中でもリーダーとして
尊敬と畏敬を一身に集め、また慕われている同い年の幼馴染に心から毒づいた。






今、彼――皇龍は父の命を受けて遠くに遠征に向っている。






帰還は1週間後である。
といっても、他の者達が3ヶ月かかる遠征を1ヶ月で終らせられるのは、
皇龍の優秀さを顕著に表しているだろう。





しかし――青輝はもう一秒たりとも待てなかった。







それは









「姉様、姉様、姉様、姉様、
ねえさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
あああっ!!」










自分が護衛する幼馴染兼未来の義妹兼一応主である蒼花の姉禁断症状が
悪化の一途を辿っていたからである。







しかも、今現在も余りの酷さに軟禁されている自室でギャアギャア騒いでいる。






まあ、それでも一応やる事はやり、仕事もきちんと終らせてはいるが、
やる事がなくなった途端にギャアギャア喚きだす。
といっても、もう蒼花に渡せる仕事は何もない。



しかも、こうなってしまった蒼花を止められる両親は今現在仕事中であり、
弟も別件で出張中。原因となる双子の姉は未だ帰還して居ない。
まあ、他の幼馴染兼護衛達やその他の幼馴染達、そしてその家族が本気で怒れば
止まるかもしれないが、蒼花に関しては黒砂糖と白砂糖にあらゆるシロップと
蜂蜜をかけたよりも大甘な彼らに蒼花を叱れる筈はなかった。
それどころか――いいんだよ、どれほど騒いでもvvと、問題ナッシングとばかりに
容認している。御陰で、その被害の全てがこちらに向ってくる。



――って、考えれば考えるほど胃が痛んできた。





(くそっ!!皇龍さえ帰ってくれば……)





青輝は、家族以外に蒼花を止められる残りの一人。
たった一言で蒼花を止められる唯一の人物である皇龍が、速攻で此処に
帰って来る事を本気で願う。



何故なら、その問題の人物であり、青輝が帰ってくる事を心底望む皇龍という青年は、
自分達幼馴染の中でも最も強い力と聡明さを持ったリーダーだからというだけではなく、
蒼花の未来の夫にして許婚であるからだ。
しかも、蒼花にとっては許婚兼幼馴染という関係ばかりではなく、皇龍は母方の
従兄妹でもあり、そういった関係から、蒼花が物心着く前から何時も傍にいては、
蒼花が我侭を起こす度に宥めてきていた。
勿論、他の幼馴染達も赤ん坊の時からの付き合いだが、蒼花と皇龍の付き合い頻度に
比べると微妙な差で負けていた。勿論、自分ですらも。
そして、皇龍に言われると蒼花は家族に言われた時同様に素直にそれを聞いた。
そんな経験上、彼ならば、きっと止められる筈。








(帰って来い帰って来い帰って来い帰って来い!!)









青輝はキリキリと痛む胃を押さえ、半ば呪いにも似た妄執じみた思いで
蒼花の許婚――皇龍の早期帰還を願ったのだった。







―戻る――二次小説ページへ――続く―




                      ―あとがき―と言う名のオリキャラ語り??

再会は笑顔と共にの第五話をお送りします♪
なんだか、原作キャラよりも目立っている当家のオリキャラ達……
原作キャラ好きの方達には申し訳なく思います(汗)
そして、どんどん酷くなる蒼麗の双子の妹――蒼花のシスコンっぷり!!
しかし、彼女のシスコンはこんなものではありません。本当に姉が好きで好きで仕方がない
人です。といっても、2歳年下の弟や家族、幼馴染達一家も大大大大好きなんですけどね。
でも、双子の姉は別格という……。なんか、こんな感じの姉馬鹿っぷりしか出てないと
かなりアホなキャラと思われがちですが、本当は蒼花って聡明で打てば響くような機知で
外面が良い絶世の美少女な反面、その内面はかなり怜悧冷徹冷酷非道の唯我独尊
ムカツク相手は何が何でも蹴落とすというキャラなんですけどね……。
よって、姉の居ない所ではとんでもない事をしていたり(笑)
彼女は、基本的に、姉や家族、幼馴染達とその家族、そしてその他一部の人達以外は
どうでも良いと思っているので。また、上記に上げた方達も似た様な思考パターンです。
唯一まともなのは蒼麗だけだったりして(汗)

それでは、此処まで読んで下さった皆様、有難うございましたvv