再会は笑顔と共に−8




ゆるく編んだ、まるで純白の雪に黄金をひとしずくだけ垂らした様な輝く銀髪。
新月を切り取ったような深い漆黒の双眸。
不気味なほどに青白い肌。そして、整ったその美貌。



それだけを見れば、思わず見惚れる者達は多いだろう。



しかし――それらを持つ存在から発せられる恐怖にも似た冷たくも
気味の悪い雰囲気と印象が思わず駆け寄りたくなるそれを思い留まらせる。
本能という――危機を察知するそれが。



だが、銀河や緑翠にとっては、危機をどうこう思う以前にこの男を
一目見たときから大嫌いになった。




今も若き姿で君臨し続ける異能を操る神祇の血族――縹家の当主。





彼らが長年培ってきた闘いの勘と人を見る目が彼を嫌うように警告していたのかもしれない。



いや、この男の遥か祖先にして昔の縹家の当主として君臨していた
あの女の血筋だからかもしれなかった。






「おやおや、何か嫌な感じがするから来て見たら……」



茶家本家の上空を通った時、その敷地内にある一つの棟から嫌な感じがした。
普通なら、触らぬ神にたたりなしと無視するが、今回ばかりは思う所があって、
緑翠と共に降りてきた。





すると、何処からとも無く数人顔を隠した者達が現れた。





あの棟に術を掛けていた術者。





彼らは、突如自分達が張り巡らした結界内に無断侵入してきた二人に驚き姿を現したのだ。





そして、邪魔者は取り除くと言わんばかりにその中の数人が術を放つ。
勿論――殺しはしなかったが、それ相応の反撃をさせてもらった。
もしかしたら、今頃死んでいるかもしれない。が、そんな事は関係ない。
攻撃されてやる気は全くないし、人に牙を向けると言うことは、自分も向けられ、
時には死ぬ事さえも覚悟するべきなのだ。
もし、覚悟が出来ていないというのならば、最初からしなければいいだけである。



銀河はにっこりと縹家当主に笑いかけた。




「縹家当主――縹 璃桜殿でしたっけ?こんな所では一体何を?此処は貴方の
テリートリーではなかったはず」



「……貴様は?」



「ああ、自己紹介をしていなかったですね。私の名は銀河です」



そして、銀河は璃桜の息子と彼に白刀をつきつけられているこの棟の主――
縹 英姫の傍に居る緑翠に視線を向けた。



「こんな奴らに名乗るの?……ま、いっか。俺の名前は緑翠。でも、気安く呼ばないで。
俺、お前の事嫌いだわ。この息子の方はお前に比べるとそうでもないけど」



「緑翠」



「仕方ないだろう?それに、そこの当主様も俺達の事は置きに召していないようだし。
ま、どっちもどっちって事だよ」




ケラケラと笑う緑翠は心底やる気がなさそうだった。だが、その目がくまなく周りに
注意を払っている事は、ある程度鍛えられている物ならば一目瞭然だった。
銀河は仕方がないとばかりに璃桜に向き直る。



「それで、貴方はわざわざ自分の穴倉から出てきてここでいったい何を?」



「貴様達には関係ないと言いたい所だが……まあいい。私は自分の捜し物を探しに
来ただけだよ。後は、一族の娘を迎えに来たんだ」



「一族の娘?ああ、あの茶 春姫ですか?それは止めたほうがいいです」



「なんだと?」



「我らが守りしお方がとても気に入られたようです」



大体今蒼麗が何をしているかだけは感知していた銀河は、既に蒼麗が春姫と
接触したことを知っていた。また、彼女をとても気に入った事も。



「ですから、このままお引取り願いたいですね。無理に奪っても……異能の継承は
なりませんよ?たぶん……蒼麗様が切れると思いますからね」




かなりお人よしで優しく温厚な蒼麗ではあるが、一度大嫌いの範疇に入ると、
徹底的にやり込める。それが、特に大嫌いな縹家ともなると、一体何をやらかすか……。



「はて?その少女が私達に何を出来ると?」



「ふふ。今、縹家では異能の出生率が下がっているようですね?しかも、歯止めはかからない」



璃桜とその息子の顔色が変る。また、英姫の顔色も大きく変わった。




「そなた、何故それを」




英姫の声が少し震えた。



すると、銀河の表情が一気に変る。凍てつく波動があたりを襲った。






「てめぇらの祖先の馬鹿女が蒼麗様を切れさせたからだよ」




口調が一気に変る。その一声一声が全てを凍りに閉ざしかねないほどに冷たかった。



銀河の表情が元に戻る。その、優しそうな笑みが再びその顔に昇った。




「その馬鹿女、蒼麗様にかなり酷い事をしましてねぇ?でも、仏の顔も三度まで。
ぶち切れた蒼麗様がその女とその女を守る縹家一族を相手取り、叩き潰したんですよ。
ふふ、子供だと思って油断していたのが運のツキ。お陰で縹家は断絶寸前まで行きました。
とは言え、蒼麗様もお優しいお方でしたからね。完全なる断絶はしなかった。でも、一つの
呪いはかけさせて頂きましたが――ああ、いえ、違いましたね。その呪いをかけたのは、
蒼麗様と同じく被害を受けたこの世の自然を司る精霊達でしたね。もし、再びあの女のような
事をしようとする者達が現れた場合は、縹家に生まれてくる子供達が持つ異能の力を
出来る限りそぎ落とされる事」



「な?!」



「人って馬鹿ですねぇ。同じ事を繰り返す。まあ……勝手に子孫が暴走って事は
ありますが……そんな事は関係ない。そして、璃桜殿」



「なんだ」



「縹家復興を願う貴方の姉君ですが、伝えられるといい。家の再興は実にいい。
けれど……決して上り詰めたり、絶頂期には入らない事」



銀河は今までに無いほど美しい笑みを浮かべた。




「そこまで行った後は……自然の摂理。堕ちるだけですからね




大きくなりすぎたものは、熟れすぎた物は内側から腐っていく。
それを食い止めるのは、余程の統治者でなければ無理である。
そう……我が主やその幼馴染達、そしてその両親達ぐらいの統治能力を持っていなければ。




「それでは、これにて私達は失礼させていただきます」




と、そこで銀河は後ろを振り返った。




「州都をうろちょろしていた術者の2割程度を始末させて頂きました。――物凄く
邪魔でしたから。といっても、偉大なる縹家には痛くも痒くもない事でしょうが」



そう言うと、銀河は緑翠と共にその場から姿を消した。







バキッ!!




「ち、父上っ?!」


少年――リオウが机の端を握りつぶした父――璃桜に叫び声をあげる。


だが、璃桜は聞いては居なかった。




「あの……忌まわしいものどもが……」




璃桜は心から増悪する言葉を吐いた。




そう、彼は思い出したのだ。父から伝えられたとある話を。
そして……自分達一族を徹底的に叩きのめしたあの滅びと災厄の女神についてを。







縹家に大いなる不幸を齎した滅びと災厄の女神――その名は 蒼麗。






『聖宝争奪大戦』に置いて尽力し、今現在秀麗達の元に滞在する少女である。




















秀麗達が目的の藍染めの占い師を見つけた時、既に午後を回っていた。


途中、懲りずに春姫と香鈴目当てに声を掛けてくる男達を追い払い続け、
もう嫌になってきていた時に、その占い師を発見したのだ。
というか、突然声を掛けてきたのだ。また、その直前、秀麗と蒼麗の背筋に悪寒が走った。
蒼麗の頭の上に居る莱も注意深くその藍染めの占い師を見つめる。


が、占い師を見つけた香鈴が歓声を上げた事もあり、一気に緊張感は途絶えた。
が、莱だけは占い師から視線をそらさなかった。



そうして、占い師の言葉により、香鈴がまず一番初めに占いをされる事になった。






ギギっ!




「ん?莱、どうしたの?」



莱が頭の飢えで威嚇している事に気づき、蒼麗は藍染めの占い師を見る。




あの男、どこかで……



いや、あの男が纏う雰囲気は……




と、その時。香鈴の占いが終った。代わりに春姫が占いをして貰う。
一方、戻ってきた香鈴の顔色は優れない。秀麗は慌てて香鈴に駆け寄った。



「香鈴さん?」



蒼麗も心配そうに声を掛ける。




と、その時、今度は春姫の占いが終わった事が告げられた。
が、その足取りはおぼつかない。



そして、今度は秀麗が呼ばれる。
しかし、嫌な予感がした秀麗は香鈴と春姫を守るように後ろ手をまわし、あとずさった。


藍染めの占い師は手を差し伸べて笑っている。そして、まるで誘うように秀麗を呼んだ。




ぞわっと、その瞬間蒼麗の体を旋律が走った。






「貴方はあの女の末裔――っ!!」




蒼麗が叫ぶ。


瞬間、突風が蒼麗を襲った。




占い師を護衛する術者達の術である。





「っ?!」






風邪が刃となり、蒼麗を切り裂かんと唸りをあげて迫り来る。




突然の事に、蒼麗は対処が遅れた。そして、衝撃に目を瞑る。











パンッ!!











何かが弾くような音が聞える。
そして、何時まで経っても来ない衝撃と痛みに、蒼麗は恐る恐る目を開けた。





そこに立っていたのは――







「っ?!緑ちゃんに銀ちゃんっ?!」






1年前も自分を迎えに来た自分の許婚の側近二人に、蒼麗は声を上げた。



そんな少女に、二人は美しいその美貌に優しい笑顔を向けて言った。







「「お迎えに上がりました、蒼麗様」」










―戻る――二次小説ページへ――続く―




                        ―あとがき―

はい、再会は笑顔と共にの第八話をお送りしますvv
今回の主役は……勿論、銀河と緑翠でしょう(笑)思い切り璃桜様を挑発……ではなく、
喧嘩を売っております。この人達も主同様に嫌いな相手は徹底的にvvが信条なので。
因みに、蒼麗が縹家を痛めつけたのをバラして多くの刺客を送られる結果を作ったのも
この二人です(←オイっ)でも、その分刺客を全て叩き潰してますが。
そして……蒼麗ですが、滅びと災厄の女神と縹家では言い伝えられております。
まあ、色々とあったんですよ。此処の部分も完全なオリジナルになるけれど、
書けたら良いな〜〜とか思ってます。って、果たして読んで下さる方はいるのかっ?!
今でさえ思い切りオリジナルが入ってるし(汗)
そして、縹家の術者達に襲われた蒼麗ですが、良い具合で緑翠と銀河が助けに来ました。
果たしてこの後、どうなるのか?!――って、銀河達はこの後かなり非道な事をします。
秀麗に対して(え?)

それでは、此処まで読んで下さって有難うございますvv