〜第五十章〜見え始めた真実〜







脳裏に響く声に惑わされ、支配された劉輝達。






けれど、その最後の最後で彼らは秀麗を守ろうとした。






だから








「一刻も早く助けなければ」







秀麗も、劉輝達も







蒼麗は改めて決意する。







と同時に、蒼麗は再び手に持っていた日記帳を開いていく。


パラパラとページを捲り、辿り着いたのは――劉輝達の脳裏に初めて声が
響いてきたと言う記述がなされ始めた一番初めのページ。






蒼麗は、半ば確信していた。
この日記の中に、きっと彼らを元に戻すきっかけとなる何かがあるのではないかと。






彼らが可笑しくなり始めた時と、その原因らしきものが記載されていたこの日記に、きっと――






「そもそも、劉輝様達が可笑しくなった原因の全ては――劉輝様達の脳裏に
響いてきた声」






日記を読む限り、その可能性が限りなく高い。
だとすれば、当然ながら――






「それが何かを解明できれば」






何とかなるかもしれない。






蒼麗は、必死に手がかりとなる言葉を文章から探していく。






その声の原因について。また、誰が発しているのかについて。






声と言うからには、きっと誰かが発しているものだ。






と言っても、直接脳裏に届くと言うからには







「普通に話して出来るものではない。やはり、術や力が」






不可思議な力が関係していると思われる。
とすれば、そう言った能力を持った者や、もしくはそう言った力を持つ道具を
使用する者の行為と思われる。








蒼麗の中に、一つの一族が浮かんだ。










遥か昔から続く異能を操る神祇の血族――









だが、直に蒼麗は頭を横に振ってその考えを打ち消した。









違う







確かに、あの一族は昔からろくな事はしてこなかったが、今回だけは違う。









何故なら








今、あの一族は蒼麗の手によって動けなくされている。








昔の様に、邪魔をされないようにする為に。







「そう……だから……絶対に――――あの一族なわけがない」









だが、その他に人を操る系と言う高度な術を扱える一族があっただろうか?









しかも、数人一度に操れる――









「う〜〜ん……となると、やっぱり、『聖宝』が関係してるのかな」





『聖宝』が関係しているとなると、話は簡単だ。
使用者にある程度の能力があれば、そんな事位簡単に実行できる物も
きちんと存在しているのだから。







何せ、そもそも今宮城を可笑しくしている大部分もまた聖宝の力。





そして、それを扱うのは高き能力を持った『彩の教団』の者達。









と言う事は、『彩の教団』の者が――








「でも、何故秀麗さんを?狙うのならば華樹姫ではないのかしら」




奴らの狙いは華樹姫。彼女を奪取しようとたくらんでいると言う。





なのに、何故秀麗が






「確かに、誰からも愛されている秀麗さんに何かあれば、此方のダメージは限りなく大きい」





とは言え、それならば直接秀麗を狙いに来れば良い。
わざわざ劉輝達に殺させようとするなんて面倒な事をせずに……。






「……………やっぱり、違うわ」





蒼麗は思い出す。



『彩の教団』の幹部の一人と名乗ったあの男――羅雁を。





あの、切れに切れすぎる聡明な頭と実力を持ったあの男が、そんな面倒な事をするだろうか?




いや、しない。


蒼麗は心の中で断言した。




ああいうタイプの男は自分にメリットがなければ面倒な事はしない。




「でも、そうなると本当に一体誰が何の目的で……って、あれ?」




蒼麗は、日記の中に一つの記述を見つけた。






助けて。声が聞こえて来る。秀麗を殺せと言う声。ほんの少しでも気を抜けば、意識を
乗っ取られそうな……いや、余の思いと意志を上から書き換えられといった感じか……。
余は、余達は秀麗が大好きなのに、愛しているのに、気付けば憎んでいると思ってしまう。
嫌いだと、殺したいと……あの……脳裏に響く女の声の言うとおり――






脳裏に響く――女の声





女の声?




「……女性?」




と言う事は、劉輝達を可笑しくした原因――脳裏に響く声の持ち主は、女性?





「これは……」




もしかしたら、とても重要な手がかりでは





その時だった。













ドォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!!
















「きゃぁぁっ!」






壁を挟んだ外から聞こえて来る爆発音。
と同時に、大きな揺れが蒼麗を襲い、その華奢な体を壁に打ち付けさせる。
蒼麗の手から、日記と『聖宝大百科』が滑り落ちて床に転がった。
続いて、蒼麗の体がずるずると床に沈んでいく。





ヒヒン?




気を失っていた母馬と子馬が目を覚ます。
が、直に悲鳴じみた鳴き声を上げた。










ピキ………ピキピキ






天井を見上げた母馬と子馬の顔が青ざめる。





美しい装飾がふんだんになされた天井が、今――元々入っていた亀裂を大きくさせていく。
今の衝撃音と揺れが原因だろう。パラパラと瓦礫の欠片が落ちてくる。




ヒヒンっ!




母馬と子馬は気を失って床に倒れる蒼麗を大きくゆすった。





だが、蒼麗は動かない。完全に気を失っている。








ピキピキ……
バキバキ――








亀裂が一気に進む。天井の瓦礫が今にも落ちかける。






ヒヒィィィィン







「蒼麗ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」









この室の扉の向こうから、大きな声が聞こえて来る。




と、同時に扉が勢いよく開いた。






「蒼麗っ!」





現れたのは霄太師。
彼はすぐさま状況を判断すると、一目散に蒼麗の元に駆け寄る。





「おお、お前達も早く逃げるぞっ」





ヒヒンっ!!





「ん?こ、これは」




霄太師が蒼麗の近くに落ちていた日記帳と『聖宝大百科』に気がつく。











バキバキビキバキィィ











ついに、天井が瓦礫となって落下を始める。















ドォォォォォォン!!!!!


















落下した瓦礫の数々。――と同時に舞い上がる粉塵。





それが完全に収まった時、そこは最早見る影もない瓦礫の山と化していた。








―戻る――長編小説メニューへ――続く―