〜第五十五章〜想いは拳に乗せて(笑)〜





「え〜と、次がこれでこの次がこう」



緑翠は取敢えずおおまかな形が出来上がった陣を前に、足りない場所を直していく。
そして、邪魔な物は取り去っていく。この術は、非常に繊細なものである為、ちょっとの障害でも取り除かなければならない。
でなければそれは失敗となり、その代償は術者である自分に戻ってくる。



「ここに翡翠、ここには紅玉、ここには青石……って、しまった!!純度が落ちてて使えないしっ」



緑翠は幾つか使えなくなってしまっている宝玉に目を潜める。
このままでは、術が発動できない。



「……仕方ない。取りに行くか」



それまでの間、銀河は一人でも全然大丈夫だし。



「めんどくさいなぁ」



だが、仕方がない。これも全ては奪われたそれらを取り戻すため。



緑翠の姿がその場から掻き消えた。














「煩い煩い煩い!私が死んだ所で誰も悲しまんわっ! 」


「何言ってんですかこのスットコドッコイ尚書がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


あれから只管続く蒼麗の説教にとうとう切れた黎深は、氷の長官と他者から言わしめるまでの冷気を纏って怒鳴り散らす。
が、蒼麗も負けてはいない。はっきりいって、この時点で蒼麗は只者ではなかった。


「黎深様が死んだらどれほどの人達が悲しむと思ってるんですかっ!!」


「余計なお世話だっ!!っつうか、寧ろせいせいするだろうさっ」


「むっきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!ふざけないで下さいっ!!今頃、仙洞宮に居る人達なんて大慌てしてますっ!!
邵可様達だって、元に戻ったらどれほど悲しまれるかっ!!」


「そんなもの、一時だけだ。兄上には秀麗がいる。すぐに立ち直られるさっ」


「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」






ドゴォッ!!






何回目かの打撃を喰らい、黎深の体が吹っ飛ぶ。



「黎深様は大馬鹿です!!ご自分の命価値をこれっぽっちも理解なんてしてない!!黎深様を大切に
思っている人達は沢山いるんですよ?!」


邵可や絳攸だけではない。その他多くの人達が黎深を大切に思っているはずだ。






しかし――突如黎深は、クスクスと嘲る様に笑い出した。





その様子の変化に、蒼麗は眉を顰める。





「くっ……く
あははははははははははは!!


「とうとう頭がイッちゃったんですか?」


違うわぁ!!…………お前の甘さ加減には笑うしかないからだ」



「それの何処が悪いんですか?」


蒼麗は堂々と言い切った。その様に、黎深は呆然とするが――すぐに再び顔に笑みを浮かべる。


「何処もかしこも悪い。お前、そんなんじゃ何時か足元を掬われるぞ。――いいか?私は、これまで多くの者達を
始末してきた人間だ。敵となった相手には一切の容赦は加えんかった。それは、この宮城にて官吏になった後も――
いや、この宮城に来てからの方がよりいっそう残酷に振舞ったか」


「黎深様」


「そんな私を大切に思う者等いるものか……戯言を言うな」


「そんな事……」


「もういい。お前はさっさと宮城の外にでも逃げろ。元々関係のない人間だ」


「黎深様っ!!」


「私は、誰がなんと言おうと兄上と絳攸を助けに行かなければならん――もうこれ以上……その手を汚させたくはない」


黎深は苦しそうに呟いた。そして、自分の手を見つめると、グッと握り締める。


……知っているか?…………絳攸は――私の影を皆殺しにした


「っ?!」


「止める暇も無かった。いや、止められなかった」


黎深は目をつぶる。あの時――自分を守ろうとした影達は、絳攸によって切り刻まれた挙句、その首を飛ばされた。
まるで舞を舞うような一切の無駄のない動きだった。その姿に、自分は思わず全てを忘れて見惚れた。


そうして、後に残ったのは影達だった肉の塊。


その事実に、黎深は呆然とした。
あの、絳攸が………武術なんて護身術ぐらいで、それ以上の事は習わせなかった。
利用されるのが怖かったから。兄のように、優秀ゆえに修羅の道を進ませられるのを阻止するために。
その手を………血で染めさせることが無いように。



けれど………あの時、全てが終わった。
自分と百合で……といっても、大半が百合だが、頑張って、大切に育てた養い子が………汚されたあの瞬間に。



「多くの人を殺した。それも、私を守る影達を殺したと………正気に戻ったとき、それを知ったらどうなると思う?」


「あ……」


絳攸は黎深を心から尊敬し、崇拝している。その相手を守る為の者達を殺し、あまつは黎深に手をかけようと
したなんて知れれば、彼は………。


「それだけじゃない。もしかしたら、今も誰かをその手にかけているかもしれん」


躊躇無く影達を殺した時の絳攸を見れば……その可能性は否定できない。
そして、一人殺すごとに、絳攸を縛る血の鎖は数と強度を増し、その首を締め上げていく。


「別に、私は他の奴等がどうなろうと構わない。化け物に殺されようとな。だが――絳攸が手にかけるのだけは
許せない。そして、兄上がその手を汚されるのも……」


黎深は辛そうに顔をしかめた。


「これも――お前は知るまい……兄上が、昔どのような目に合わされてきたか……」


「どのような……目?」


「ああ。だからこそ、私は全てを憎んだ。兄上にあのような事をさせた者達を――そして、家から追い出した
あの馬鹿な両親達と一族をっ!!」


「………………」


「兄上は……まだ10代の初めに…父に遊学と称して家から追い出された。そして――王都で先王達によって、
凶者として人を殺させられてきたのだ」


「………………」


「兄上は……優しい方だった。書を読み、琵琶を弾くのを好まれる物静かな方だった。なのに――先王達は
兄に手を汚させ、血で染まったその道を歩かせたのだっ!!先王の懐―風の狼という凶者集団の頭目として!!」


「邵可様が凶者……」


「ああ。兄上の有能さに目をつけたあいつらによってな!!そして兄上は手を汚し続けた。腐った一族と……
幼かった我等を守る為に……。だが、兄上は気高く強く――優しい方だ。先王達と渡り合い、標的ー―悪人だけを
殺す事を約束させた。そして――凶者集団――風の狼が必要なくなると同時に、兄は他の凶者達に新しい道を
進ませるべく風の狼を解散させた。もう、凶者として働かなくてすむように、人を殺さずにすむように……。
そう――本当にお優しい方なのだ……。そして、兄上もどこかで見つけてきた義姉上と、娘の秀麗と共に静かに
暮らし始めた。――とはいえ、あの王は隙あらば兄達に無理難題をふっかけてきたがな」


黎深は笑った。それは、苦しそうな笑いだった。


「本当ならば、私は官吏なんてどうでも良かった。だが、兄上達に静かな生活を提供するためには、何が何でも
人事を司る吏部を支配しなくてはならなかった。兄上が大好きな書物を読めて、政治に利用されない場所に
留めて置く為にも。だからこそ――憎き先王の居たこの宮城にも残り続けたのだ」


でなければ、とっくに見切りをつけて紅州に舞い戻っている。
そうして、ようやく手に入れた吏部尚書の地位。まず最初に行なったのは、前任を含めた馬鹿でアホな者達の抹殺。
確かに馬鹿でアホだが、奴等がいると自分のやる事に対して大きな障害となる。そうして、自分は奴等を始末した。
その際には、先王達に見せ付けるように行なった。いつか、お前達も同じ目にあわせてやるという意味を込めて。
不敵に笑うあいつらに、黎深は己の力を見せ付けたのだ。


だが――



「兄上をあのような目にあわせた奴等が憎い!!殺してやりたいほどに憎い!!ずっと憎み続けてきた。
あの優しい兄をあんな目にあわせやがった奴等が!!……だが――それについてはもう如何し様もないのも……事実だ」


「黎深様……」


「相手が憎い。憎くて堪らないっ!――けれど……既に、兄上に凶者を命じた者も、その術を仕込んだ者も
この世にはいない……。が、それ以上に今更憎んだとしても、兄上が凶者として暗殺を繰り返してきた過去は
決して無くならん。例え、紅家当主の力を持ってしても!!だから、だからこそこの先、もうこれ以上兄上には
手を汚して欲しくはない!!それは、我侭なのかっ?!」



過去はもう変えられない。でも、未来は変えられる。今、どう動くかで、その後に続く未来を明るくも暗くも出来るのだ。



そして、今――今この時も手を汚しているかもしれない兄達を助けるべく自分が動けば……例え、その結果自分が
死んだとしても、兄達がこれ以上血に染まる前に助け出せるかもしれない!!



「だから、私は行く。これ以上その手を汚させる前に――私が兄上と絳攸を救う」



そう言った黎深の姿は、本当に勇ましかった。



しかし




「でも、それで黎深様が死んだら……邵可様も絳攸様も、他の方達も苦しみます。そして――黎深様を殺した
相手を憎みます。黎深様が……邵可様を利用した先王陛下達を憎んだように」


「っ………」



蒼麗の言葉に、黎深は口をつぐんだ。


どんなにもがいても出口のない苦しみを伴った憎悪。あれと同じものを、兄上達も味わう?


「もしかしたら、邵可様達は相手を捕らえて、処刑するかもしれません。でも……そうすれば、今度は相手の
家族が邵可様達を憎みます。そして、殺し合い……それが永久に続く。まるで終わる事のないメビウスの輪のように」


「それが……」


「どうした?――なんて言ったら、顔面に右ストレートしますからね。ってか、どうしたなんて言ったら、私、
後で邵可様に黎深様は邵可様達の事なんて大嫌いだって嘘言いますからねっ!!」


「お前っ!!」


「だって、そうじゃないですかっ!!普通、相手の事が大好きで、本当に大切ならば、自分が味わった
苦しみを味あわせたいなんて思わないじゃないですかっ!!」


「くっ……?!」


「もし、私の場合だったら絶対にそんな事させません。誰が大事で大切でたまらない人達にそんな辛い思いをさせなきゃ
ならないんですかっ!!絶対に、そんな思いなんてさせない。その苦しみを分ってるからこそ、絶対にそんなのは嫌です!!
なのに、黎深様は簡単に命を捨てるみたいな事を言って、勝手に仙洞宮から出てきて、皆に心配させて、挙句の果てには
邵可様達を助けるなんてかっこいい事言ってるけれど、結果的には自分と同じ苦しみを味あわせようとしてるじゃ
ないですかっ!!それの何処がかっこいいんですかっ!!それに、少しぐらい私達の事も信用してくれても
いいじゃないですかっ!!」


蒼麗は訴えた。今、自分達は邵可達や秀麗を助けるために、必死に頑張っているのだと。
その為に、この化け物の徘徊する宮城内を駆け回っているのだと。


「蒼麗……」


「確かに、黎深様の気持ちだって分ります。あの邵可様に、先王陛下達がそんな事を強いていたとなれば、本当に
苦しくて辛いのも分ります。もう、昔みたいに人を殺すような事をさせたくないのも分ります。でも、もし黎深様が
死んでしまえば、黎深様のそんな思いを裏切って、きっと邵可様は相手を殺しにいきますよ?!大事な弟なんですから!!
私だって、双子の妹や、2歳下の弟が殺されたら、刀持って殴りこみにいきます。でも、そうなったら駄目なんです!!
そんな事したら、憎しみはより強固になって、もう取り返しの付かないぐらいに強い鎖となって襲い掛かって
くるんです!!連鎖しちゃうんです!!加重しちゃうんですよっ!!」






だから、自分はそうなる前に――妹達が傷つかないでいられるように、頑張るのだ!!







――っていっても、現在その役目は自分の許婚や幼馴染達が受け持っているが……。





そして、見事なまでに妹を守り抜いている。






………あれ??私って、役立たず?




と、そこで蒼麗は思考を修正した。このままだと絶対に泥沼にはまる!!



――が、そんな蒼麗の考えなどこれっぽっちも気づかず戸惑っていた黎深は、
ようやくしどろもどろに言葉を発し始める。


「そ、そんな事……」


しかし、その先を蒼麗は言わせない。


「憎しみはどんどん降り積もる。そして気づけば如何し様もならない事態に陥ってる。そうなれば……多くの人達が傷つく」







憎しみは憎しみを呼び、大きな波紋となって周囲に広がっていく。







あの時のように








「お願いですから、本当に邵可様達をの事を思うのならば、安全な場所に居てください」


蒼麗は願う。


「そして、お願いですから一人で何でもかんでもやろうとしないで下さい。黎深様には沢山良い人達がいるんですよ?
その人達の事も信じて下さい。皆が黎深様を大切に思っていることを忘れないで下さい。一人で出来なくても、皆で
頑張れば出来るって事を覚えていてください」


「蒼麗、でも、私は――」


蒼麗の言葉に押されそうになる。でも、でも――黎深は諦め切れず、その言葉を紡いで行く。
己の思いを、己の心が篭ったその言葉を………。
それが、蒼麗の怒りに火を注ぐ結果になると分っていても尚――



「私は兄上を救いたい。それに、こんな国の事も考えない私よりは、兄上達を救い出して私が死んだ方が、
後の国にも良いのだろうからな」



その言葉に――蒼麗の目が見開かれる。
今までで一番大きな破裂音が闇の中、響き渡って言った。





「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っ!!そんな事言って!!そんな、また、また『聖宝』を造る気ですか?!」





切れまくった蒼麗は、既に自分が何を口走っているか分らなかった。



だから



だからこそ、蒼麗の口はそれを紡いでいた。



その禁句とも言うべき言葉を………

























「殺して、殺されて、憎んで、傷つけて――『聖宝』は、そんな憎しみの連鎖によって生まれたんですよっ?!」




























…………………………………………………………

























「なんだと?」

















黎深の呆然とした言葉に、ゼィゼィと息を吐いていた蒼麗は、そこでようやく自分が何を言ってしまったのかに気づいた。
慌てて口を手でふさぐが、だからと言って言ってしまったその言葉が無かった物になる事はない。
恐る恐る黎深を見ると、彼は驚きや困惑、その他色々なものが入り混じった瞳を向けてくる。




「蒼麗、それは……」




「……ぁ……」



暫し、その場を沈黙が支配する。





しかし、黎深がその真意について問おうとしたその瞬間







キィィィィィィィィィィン




「っ?!」



闇の中に響く不思議な金属音。


「……なんだ?この音は」


「……ぁ」


キョトンとする黎深とは反対に、蒼麗はその音が何を示しているのか気がついた。



見る見る内に顔が青ざめていく。
が、だからといってこれから起こる事が止まる事はない。






時の砂が静かに流れ落ち始める。






(そ、そんな……)



蒼麗の中に焦りが生まれ、それはどんどん大きくなっていく。
まだ、全然何もやっていないのに――



(どうする?)



その言葉が自然と蒼麗の脳裏に過ぎる。



(まだ、何も終わってないのに)


蒼麗は手を強く握り締める。


(何も終わってない。黎深様との話に決着がついてない。まだ、此処にいたい!!黎深様がその気持ちを変えるまではっ!!)


このままでは、黎深が無駄死にするかもしれない。








そんなの絶対に嫌だっ!!







だが――そんな蒼麗の思いも空しく、その音の示す物が止まる事はない。そして止める事もできなかった。


そもそも、自分にはこの接続を長続きさせる力はない。というか、黎深の夢の中にいる事自体が自分の意思ではないのだ。



蒼麗は、力なしの自分を激しく恨む。力さえあれば、もっとこの場に留まれたのに――




「蒼麗?」



黎深が、此方を心配そうに見つめてくる。それはとても珍しい表情だった。
だが、驚いている暇はない。そして、もう説得している暇もない。





運命は黎深を更なる残酷な道へと進ませようとしている。







キィィィィィィィィィィィィィィン







さっきよりも大きくなる音。


もう――覚悟を決めなければならない。


蒼麗は静かに目を閉じ――そして、ゆっくりと見開く。そこに宿るは決心の光。



もう――いいです」



感じる。時の音が。もう、余り時間が残っていない。はっきり言って、もうこれ以上の説得は無理だ。
ってか、してられない。となれば――自分が、頑張るしかない。



「黎深様!!」



「あ?」


「まだ心は変わっていませんか?どうしても、邵可様達を助けに向いますか?」


そして



「私の言葉を聴いてなおそれを望みますか?」


その言葉に――黎深は暫し戸惑ったが……やがて、深く縦に頷いた。


「……なら、仕方ありません。でも、忘れないで下さい。一人で無理だと思ったら、絶対に助けを求めるんですよ!!」



「蒼麗?」



その間にも、音はどんどん大きくなっていく。



「いいですか?一人で特攻の末死んじゃったなんて事態、絶対に許しませんからねっ!!」



と、その瞬間、
パキィィィィンという何かが壊れる音が周囲に響き渡る。







夢への接続が切れた。







蒼麗の体が、凄い勢いで外へと吸い出されていく。







「蒼麗っ!!」





黎深が慌てて手を伸ばす。
すると、何とかその手首を掴むことができた。しかし、蒼麗を吸い出す力が強く、どんどん手が離れていく。







「分りましたか?約束して下さい!!一人で突っ走らないで下さいね!!そして、絶対に死なないで下さいね!!」



「この非常時に黙っとれんのか貴様はっ!!」



そうこうしている間にも、黎深の指が蒼麗の手首から剥されて行く。




「そして――」



蒼麗はあせる黎深に微笑んだ。




「必ず私も行きますから」




「え?」




「絶対に絶対に黎深様の所に行きますからっ」




それは予感。絶対に、黎深は邵可達と対峙する。



そして自分は、絳攸達を探している。




だからきっと







「でも、もしその前に駄目だと思ったら呼んで下さいね!!」






黎深の手が、蒼麗の手首から完全に外れる。





「蒼麗っ!!」




「忘れないで下さい、
必ず助けに行きますからっ!!だから、それまで頑張って――







そこで、蒼麗の声は途切れた。その姿も闇にまぎれて見えなくなる。






「蒼麗、蒼麗ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいっ!!






















「蒼麗っ!!」




カッと目を見開き、手を伸ばしたままがばっと起き上がりながら黎深は叫ぶ。





ゴンっ!!






勢いがつきすぎたせいか、目の前に居たその人物と頭をぶつけ合った。
目の前に、沢山の星がキラキラと輝いている。




「くっ、何だこれは――って、お前は………」


「イテテテテ……お前な……何だとはとんだ言い草じゃないか?――黎深?」



呆然とする黎深の前で額を抑えてニカっと笑うその人物は――工部尚書にして同期の管 飛翔。
頭や腕に包帯を巻いているものの、それ以外何時もと変わらない彼の姿に、黎深は暫し言葉を失った。



「ようやくお目覚めか?」




飛翔のホッとした、けれど何処か面白がるような声に、黎深はようやく言葉を発した。






「………私は、夢から覚めたのか?」








そんな黎深の質問に答えるかのように周りを見回せば――そこは、自分の、吏部尚書の執務室だった。








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